在日米海兵隊司令官「尖閣奪われても奪い返せる」 発言の裏には議会への予算アピールも?

 日本に駐留する米海兵隊のトップ、ウィスラー司令官は11日、もし尖閣諸島が中国に侵攻されたとしても、米太平洋海兵隊が奪還できると語った。米軍関連紙『星条旗新聞』が報じた。

【海兵隊の進撃力に自信を示す司令官】
 同司令官は、「それが実際に起こるとしたら、どのように起こるのか、あるいはそもそも起こるのか、といった類いのことを言おうとすれば、それは純粋に推測にとどまる」、とも語っている。

 また、「世界のどこであろうと、強硬上陸の(海軍との)合同作戦を遂行してみせよと言われれば、われわれ海兵隊にはそれを行う能力がある」と豪語したことを、米国防省ウェブサイトがニュースとして伝えている。

 一方、尖閣諸島に関しては、非常に小さい島々であり、上陸しなくても、(海軍と海兵隊とで)海上と空から攻撃をすれば、おそらく敵を排除できるだろう、と述べたことを『星条旗新聞』は伝えている。

【アメリカの干渉を嫌がる中国】
 BBCは、この発言に対する中国側の反発を、中国メディアを抜粋して報じている。

 この発言に先立ち、アメリカのヘーゲル国防長官は、今月6日には日本で、8日には中国で、尖閣諸島は日米安保条約の適用対象であると再三述べている。

 これらを踏まえて、人民日報海外版のウェブサイト『海外網』は論説で、アメリカは、尖閣問題を利用して日中間に長期的な緊張をもたらし、海外のパワーバランスを操る、という危険なゲームを行っていると断じる。それによって、中国の自由な活動に足かせをはめている、というのだ。同サイトは「火遊びをする者は、やけどをする」という古い格言を忘れてはならないだろう、とアメリカに警告する。

 アメリカが干渉することによって、尖閣問題が日中間だけの問題では済まなくなることに対し、中国がいら立つ様子が見て取れる。

 人民日報傘下の環球時報のウェブサイト『環球網』は、ウィスラー司令官は、同盟国への支持を示すためと、中国に武力行使をしないよう警告するため、この発言を行ったのだ、という中国国防大学の朱成虎教授の見解を紹介している。

【司令官の発言は、アメリカ国内へのメッセージでもある?】
 ウィスラー司令官の発言は、日本へのメッセージ、そして中国へのメッセージであると言うことは正しいだろう。しかしそればかりでなく、アメリカ国内へのメッセージである、ということも言えそうだ。

 アメリカは近年、大きな財政赤字に悩んでいる。2011年には政府の債務が法定上限に達したため、上限を引き上げるかわりに、2013年からの9年間で、政府の歳出を合計1兆2千億ドル、強制的に削減する法案が可決された。その半分は国防費からの削減となる。

 米国防省は2012年、国防予算の削減計画を示した「予算の優先順位と選択」と題する報告書を議会に提出した。それによると、2013年度からの5年間で、陸軍は56万2千人から49万人に、海兵隊は20万2千人から18万人2千人に削減される。オバマ政権がアジア太平洋重視戦略を打ち出しているため、在日米軍などの兵力は削減されない。

【海兵隊は海軍との蜜月を陸軍に邪魔されたくない?】
 そこで陸軍は新たな活路を見出すために、保有する攻撃ヘリを艦船に載せて、太平洋での役割を拡大することを模索している。これに対して、海兵隊は航空戦力も保有しているため、役割が被ることになるので、この動きを歓迎していない。

 冒頭のウィスラー司令官の発言に関する『星条旗新聞』の記事は、同司令官が陸軍のこの動きに対して、懸念を表明したことも、併せて伝えている。それによると、同司令官は、大筋では反対ではないが、とワンクッションを入れつつ、陸軍と海兵隊の連携には実現の上でさまざまな困難があるだろう、と消極的な姿勢を示している。また海上航空戦力は、海兵隊の保有するもので十分足りている、とも述べている。

 ウィスラー司令官は、陸軍を受け入れられない理由の一つとして、海軍の保有する揚陸艦の数が十分でないことを挙げている。陸軍とは違って、海兵隊と海軍は緊密な関係にある。海兵隊が上陸作戦を行うときには、海軍の揚陸艦で乗り込む。海兵隊が訓練をするのにも揚陸艦が足りていないのに、さらに陸軍が入る余地はない、というのだ。同司令官は、海兵隊が今後ますます力を発揮するために、揚陸艦の拡充が必要だと訴えている、と国防省ウェブサイトは伝えている。

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Text by NewSphere 編集部