海外紙、日中衝突への懸念強める 安倍首相が中国を第一次大戦前のドイツに例えたことが影響か

 22日、スイスで開催されたダボス会議(世界経済フォーラム)で、安倍首相が中国を第一次大戦前のドイツに喩えたと報じられている。今年はちょうど第一次大戦勃発100周年にあたる。

 当時軍事的に台頭しつつあったドイツは、イギリスと経済的関係が強かったにもかかわらず、戦争は起こった。そして首相は今の日中関係が「似たような状況」にあると認めた、との報道である(※菅官房長官は戦争示唆との見方を否定しており、また、中国を当時のドイツに喩える声はすでに存在する)。

【またひとつ緊張の火種】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、12月の靖国参拝ですでに火に油を注いでいたところ、ダボス会議で安倍首相は参拝を擁護したうえ、これでさらに「懸念の新しい理由」が浮上したと評している。同紙は、「安倍は単に、現在の紛争の深刻さを強調するだけのつもりだったかもしれない」が、これまでナショナリズムを放置して現在の緊張に至らしめた責任は免れない、と断じている。

 一方中国側についても、ある人物がダボスで「係争の島々に成功裏に『外科的』侵略をやってのけられると示唆した」と報じており、「狂気」と評している。記事は、双方とも刀をチラつかせるのをやめて対話を始めよ、アメリカは両者にハッキリ警告したうえで対話の仲介をせよ、と呼びかけている。

【中国は「すでに」大国だ!】
 ただしニューヨーク・タイムズ紙は、「時として大ファランクス(※古代ギリシャの密集槍兵陣)を組んでダボスに現れる中国高官らは、今年は会議にいなかった。たぶん安倍が代表的ゲストだった(※基調講演を務めた)からだろう」と、皮肉めいて報じている。

 そのかわり中国外務部は翌日、北京の定例会見で、「よく準備」されている様子で反論したという。それによると中国は漢王朝の時代からすでに大国であり、台頭中なのではなく失地回復の途上なのであるから、大国「初心者」であった当時のドイツとの比較は適切でないとのことだ。そして日本は第一次大戦よりも日清戦争や第二次大戦の過ちをこそ省みよと、「おなじみの中国式19世紀・20世紀史の説法をまた持ち出した」と報じられている。

【八方美人はもうムリかもしれないアメリカ】
 ただしワシントン・ポスト紙は、「米当局者や専門家」は衝突は考えにくいと言っている、と伝える。双方とも経済関係の維持に熱心だし、どちらかが明確な勝者として浮上しそうにもないからだという。

 しかし専門家らによれば、米オバマ政権はアジア重視戦略をとり各国の関係を緊密化させようとしているものの、「片側に何かをしてやれば、もう片側は自分に刃向って行われたことだと見る」ため、中国と日本(あるいはベトナムなど他の対立相手)、双方と円満であり続けることはもはや困難だろうとのことだ。例えばオバマ大統領は4月、アジアサミットに先駆けて、中国には寄らずにアジア歴訪をする予定であるが、これも中国側からは敵意ととられそうだという。

 記事は、係争地域での事故や誤算を防ぐための対話チャンネルの重要性を繰り返しているが、すでに日中は「もう口も利いていない」し、中国防空圏宣言も靖国参拝も米国に相談なしに行われたと諦め顔だ。

日中関係―戦後から新時代へ (岩波新書 新赤版 (1021))

Text by NewSphere 編集部