蚊の恐怖と、遺伝子操作というパンドラの箱

James D. Gathany / Wikimedia Commons

◆蚊の遺伝子操作はパンドラの箱?
 蚊媒介感染症を運ぶ蚊の種類は、ほんのひと握り。3000種あるという蚊のうち、ハマダラカ属(マラリア)、アカイエカ属(日本脳炎など)、ヒトスジシマカ属、ネッタイシマカ属(デング熱など)の名前がまずあげられる。

 そこで、これらの蚊を対象に、何かしらの遺伝子操作をして感染症を広めないようにする研究が進められている。

 カナダのMaclean’s誌は、今年7月7日に『The Mosquito: A Human History of Our Deadliest Predator』(蚊:人間の歴史と最も恐ろしい天敵)を上梓したカナダ人歴史家、コロラド・メサ大学教授のティモシ―・ウィンガード氏のインタビューを掲載している。

 記事中、2018年の9月に『ネイチャー・バイオテクノロジー』で発表された研究結果について触れている。研究結果とは、「ロンドンのインペリアル・カレッジでCRISPR(ゲノム編集技術)を使って、マラリア原虫を運ぶ蚊を7世代で全滅させることに成功した」というものだ。

 蚊の自然界の寿命は2週間程度だという。7世代で全滅させられるということは、非常に短期間にマラリアの媒介者を消滅させることが可能になるということである。

 問題は、研究室での結果と実情が大きく食い違う可能性があるということだ。「2024年までに各国の許可を取ってフィールドサーチに移りたいとしている」とのことだが、Maclean’s誌は「パンドラの箱を開けてしまうことになるのではないかと懸念」していると結ぶ。原理上は可能だが、人間の都合で自然をコントロールするという倫理的問題が残るためだ。

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Text by 西尾裕美