蚊の恐怖と、遺伝子操作というパンドラの箱

James D. Gathany / Wikimedia Commons

◆日本でかかりやすい蚊媒介感染症は日本脳炎
 日本脳炎はウイルスを持った豚を吸血した蚊が人間を刺すことで感染する。ウイルスが人間の体内に入っても発症する確率は少ないが、発症すると致死率が高く、一命を取り留めたとしても患者の半数以上に後遺症が残ってしまう。

 そのため日本では、3~4歳で2回、9~10歳で1回のワクチン接種が勧められている。ちなみに海外では日本脳炎の症例は少なく、もちろん予防接種も定期健診には組み込まれていない。日本脳炎の予防接種がしたい場合は特別接種となり、実費で希望者のみに行われている。

◆蚊媒介感染症で最も多いものはマラリア
 蚊媒介感染症のうち、世界的に見て最も問題になっているものはマラリアである。マラリアはウイルスではなく、蚊の体内に潜んでいるマラリア原虫という寄生虫によって引き起こされる感染症。蚊媒介感染症のうち最も症例数が多いものは、マラリア感染によるものだ。

 世界保健機関(WHO)は毎年、マラリアレポートのなかで前年のマラリア感染者数や死亡者数を発表している。2019年に発表された同レポートによると、2018年の感染者数は2億2800万人、死者数は40万5000人だ。驚くべき数字だが、実は犠牲者数は過去と比べて大幅に減っており、WHOのレポートによると、2000年から2018年の間にマラリアによる死亡者数は約52パーセント減少している。

 WHOによれば、マラリア患者が多い国はサハラ以南のアフリカやインドなど19ヶ国。この地域を中心にマラリア感染防止の正しい知識を広めたり、蚊よけのネットを普及させたり、医師を派遣したりなどたゆまない努力の結果、犠牲者が大幅に減っている。

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Text by 西尾裕美