中絶のために他州に行くと逮捕される? バイデン大統領は州の動きを予測

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 現在保守派が過半数を占めるアメリカ連邦最高裁が、人工妊娠中絶を憲法上の権利として認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆し、各州政府にその判断を委ねる判決を下してから1ヶ月が過ぎた。その後多くの共和党州ではその判決に基づいて人工妊娠中絶が禁止され、なかにはオハイオ州のように、たとえ10歳の子供がレイプで妊娠した場合でも、妊娠6週間を過ぎていれば中絶手術を禁止するケースもある。その子供はその後、現時点ではまだ中絶手術が禁止されていない隣のインディアナ州に行き、無事に中絶手術を受けることができたという。

 現在はまだこのように、中絶禁止州で手術を受けられない場合の最終手段として、非禁止州に越境し、妊娠中絶手術を受けるという抜け道がある。事実、アマゾンやシティグループ、テスラ、セールスフォースなど多くの有力企業が、中絶禁止州に住む女性社員が中絶手術を受けるために他州に移動する際の経済的援助制度を打ち出しており、この傾向は今後も増加していくことが予想される。
 
◆共和党が越境の権利保護を拒絶
 しかし共和党は妊娠中絶を希望する女性たちが越境して手術を受けることを阻止しようとしているようだ。ABCニュースによると、連邦上院議会で14日、妊娠中絶を受けるために他州に移動する女性たちと、その治療を行う医師を保護するための法案の投票は、共和党の賛成票が皆無で却下された。この法案を提出した民主党上院議員によると、これは憲法修正第14条のなかに含まれる「旅行の自由」に基づき、妊娠中絶を希望する女性たちが法的に問題なく越境する権利を保護するためのものだった。

 アメリカ人であってもなくても州間の移動はもちろん自由だ。しかしそこに一部の州で禁止されるようになった中絶手術が関わってくると問題は複雑になる。前述の10歳の子供が中絶手術を受けたインディアナ州の司法長官は、地元紙インディアナポリス・スターによると、中絶治療が現在のところ同州では合法であるにもかかわらず、この医師の対応が合法的であるかどうかの捜査を行うと公表した。それに対しこの医師は逆に同司法長官に停止忠告書を送付したという。

Text by 川島 実佳