ポリオ根絶した英国、下水からウイルス検出 当局がワクチン接種呼びかけ

ウイルスが検出されたベクトン下水処理場|Tom Falcon Harding / Shutterstock.com

◆すでに今年初めに流入? 家庭内感染の可能性も
 スカイニュースによれば、この20年ほどの間にイギリスを含め西ヨーロッパではワクチン由来のポリオの集団感染は起こっていない。欧州地域でも、確認された集団感染はウクライナ2件、ウズベキスタン1件、イスラエル1件のみだという。

 ロンドンにどのようにしてウイルスが侵入したかだが、イギリス保健安全局(UKHSA)は、海外で生ポリオワクチンを接種した人が2022年の初めに入国しウイルスを排出したと見ている(スコッツマン)。

 イギリスを含むポリオが根絶された国のほとんどでは、生ワクチンではなく不活化ワクチン(ウイルスの感染能力を失わせたものが原料)が予防接種に使われている。しかしスカイニュースによれば、感染が残るパキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアでは流行時に効果が高い生ワクチンを利用している。これらの国から来た人がウイルスをもたらした可能性が高く、その人物は現在、ロンドン北東部でウイルスを家族など近しい人々に移しており、その人たちの糞便中のウイルスが検出されていると考えられている(スコッツマン)。

 UKHSAは現在コミュニティ内での感染の程度を調査中だが、念のためほかの地域でも起こっていないか確認するとしており、ナショナル・インシデント(国家的緊急事態)を宣言し、世界保健機関(WHO)に状況報告を行った。

◆集団感染の可能性は低い 予防接種率の低いエリアは注意
 もっとも、これまでポリオ感染者の報告はなく、ジャビッド保健相はウイルスの検出については「とくに心配していない」とBBCに話している。イギリスでは、ポリオワクチンの接種は1歳までに3回、その後3歳、14歳でブースター接種することになっている。最初の3回の接種率は92%を超えており、かなりの予防効果が期待できる。

 ただし、最初の3回の接種率はロンドンでは90%弱に低下しており、ブースターに関しても5歳までに71%の子供が受けているに過ぎないという。いまのところ感染リスクは低いが、ワクチン接種率の低い地域で感染が広がる可能性があるという(スコッツマン)。

 集団感染が起きればイギリスはWHOからのポリオ清浄国としてのお墨付きを失うことになりかねない。UKHSAは、ワクチン接種が完全に終わっていない子供たちは感染リスクが高いとし、できる限り早く接種を受けさせるよう保護者に求めている。また、長らく感染がなく警戒心が薄れていたこともあり、とくにロンドンの医師たちにポリオの症状に注意するよう呼びかけている。(i紙

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Text by 山川 真智子