食料、生活インフラ、外出禁止… キエフ在住日本人に聞く日常生活

3月19日のキエフ市街の様子|Rodrigo Abd / AP Photo

◆ニュースなどの情報源
 現在ウクライナのテレビ局は全局が協力し合い、担当時間を決めて常時24時間ニュースを流している。放映されたニュースの一部はYouTubeや、政府の公式アプリでも流される。また活字版はSNSで読むことができる。

 情報アプリは主に2つある。1つはキエフ市による公式アプリ「キエフ・デジタル」で、通常時には交通機関情報や市民へのお知らせ告知に用いられていたものだ。もう1つは、国が発信する「クライナ・インフォ」。現在、警報や外出禁止令を含む重要な知らせは、主にこれらのアプリとそれとリンクしているSNSで届く。国の公式SNSには、2種の火炎瓶の正しい作り方なども掲載されているという。

 ウクライナで最も普及しているSNSはバイバーとテレグラムで、職場のグループや同じ集合住宅居住者のグループとの情報交換はグループチャットを介して届くことが多い。

◆コロナの残した土産
 このようにデジタル化が進んでいるのは、ひとつには新型コロナが理由だという。上述のクライナ・インフォは、もともとコロナアプリとして政府が開発したものだった。それが、ロシアの侵攻後、名前も内容も変えられいまの姿になった。国民もコロナアプリを通して政府の知らせを受け取るのに慣れていたため、クライナ・インフォにもスムーズに移行できた面がある。

 江川氏はタラス・シェフチェンコ記念キエフ国立大学言語学院で教鞭をとっているが、パンデミックで授業はほとんどオンラインになっていたため、ロシアのウクライナ侵攻が始まってからも2月末までは授業が続けられたという。ただし現在はすべて休講となっている。

 さらに、パンデミックでステイホームを経験していたことも、戒厳令や外出禁止令による混乱軽減に役立ったのではないかと江川氏は考えている。

◆いつ何時ひっくり返るとも限らない日常
 ほぼ正常にインフラが機能している「日常」がある反面、家にいながら爆撃音を耳にし、ミサイルの光を目にする「日常」も存在する。煙の臭いが漂い、視界が悪い日も珍しくない。ロシア工作員に関するニュースも日々流れ、誰を見ても疑心暗鬼に陥る状況は精神的にもきつい。例年なら歓迎する春の訪れも、いまは遺体の腐敗を早めるという忌まわしさを伴う。

 江川氏は終始冷静に現状を語ってくれたが、緊張の糸は常に張りつめていると察せられた。上のような「日常」自体、いつひっくり返るかわからない。たとえば、いまはつながっている水道、電気、インターネットだが、明日、それどころか1時間後も変わらずつながっている保証はどこにもない。もし電力が絶たれれば、ポンプも動かなくなり水道水も使えないことになる。給水所が設けられたとしても、エレベータも動かないなか、毎日それを10階、20階まで持って上がるのは至難の業だ。

 ウクライナ西部に住む長女とは、いまは携帯電話やSNSで連絡が取れる。だがそれらが機能しなくなったときはどうなるのか。たとえ命が助かってもこのまま行方がわからないことになるのではないか。不安は尽きない。

Text by 冠ゆき