ブタの心臓を人に移植、世界初 生まれる希望と新たな問題
◆ドナー不足解消に希望
ニューヨーク・タイムズ紙は、昨年9月のブタからの腎臓移植に次ぐ成功事例であると報じている。ここ10年ほどで遺伝子操作やクローン技術などが進歩し、これによって異種間移植の研究は加速した。アメリカでは現在、およそ50万人の患者が腎臓やその他臓器のドナーを待っている。研究者たちは今回のような成功事例により、将来的に移植用臓器が不足することのない新しい医療の時代が到来するのではないかと期待を寄せる。
ニューヨーク大学ランゴーン医療センターのロバート・モントゴメリー外科医はUSAトゥデイ紙に対し、「驚くべきブレイクスルーだ」と語っている。モントゴメリー医師は移植手術医であり、昨年9月の腎臓移植を成功させた本人である。また、自らも移植手術を受けた経験をもち、患者と執刀医の両方の立場を理解する数少ない人物のひとりだ。氏は「一報を聞いて興奮している。今回の飛躍的な出来事は、ゆくゆくは私自身の家族やほかの患者などを救う希望となるものであり、そのことに感激している」と心境を語った。
◆動物愛護団体は反発
医療に革新をもたらすブタからの移植手術は、一方で倫理的な議論を再燃させることとなった。USAトゥデイ紙は、ブタの臓器の使用に関して動物愛護団体が反発していると報じている。記事によると、「(個々人の意思でドナー登録に)同意するシステムでなく、拒否の意思表示をしない限りすべての人が臓器ドナーであると保健当局がみなせば、移植できる人間の臓器は増える」との主張があるようだ。
別の観点として、ワシントン・ポスト紙(1月13日)は、分配の公平性確保が課題だと指摘する。臓器ドナーを待ちながら亡くなってゆく患者は、全米で1日あたり17人に上る。人間同士の移植であればドナーを公平に割り当てる仕組みが存在するが、動物からの臓器については枠組みが存在せず、ベネット氏の移植については米食品医薬品局が緊急的に承認したにすぎない。ほかにも、臨床試験によって移植の安全性を検証するなど、動物からの移植を普及させる前に多くのステップが必要だと同紙は論じている。
ドナー待ちの患者にとって希望となる異種間移植だが、代わりに犠牲となる動物の生命と公平な分配をめぐり、今後議論が必要になりそうだ。
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