ブタの心臓を人に移植、世界初 生まれる希望と新たな問題

Mark Teske / University of Maryland School of Medicine via AP

 アメリカのメリーランド州で1月7日、世界初となるブタの心臓の人間への移植が行われた。8時間にわたる外科手術が実を結び、患者の予後は現在のところ安定しているという。成功事例として臓器ドナーを待つ多くの人々に希望の光をもたらした反面、新たな倫理問題の火種ともなった。

◆生きるため最善の選択
 手術を受けたのは、メリーランドに住む57歳男性のデイブ・ベネット氏だ。手術はメリーランド大学の医療センターで8〜9時間をかけて行われた。拒絶反応を抑えるように遺伝子操作された1歳のブタから心臓が摘出され、ベネット氏に移植された。USAトゥデイ紙(1月10日)によると、術後にベネット氏は自発的な呼吸を続けている。ただし、血液を全身に巡らせる能力の半分を、体外式生命維持装置のECMOに依存している。担当医は今後、徐々にECMOへの依存を減らして退院につなげたい方針だ。

 末期の心臓病を患っていたベネット氏にとって、ブタからの異種移植は危険度の高い最後の賭けだった。息子のデイヴィッド・ベネット氏は、ニューヨーク・タイムズ紙に対して「父は死の淵にありました」「医者たちは父を生かしておくためにあらゆる手を打ちました。余命は6ヶ月に満たないと彼らは告げ、(異種間手術は)非常に実験的な性格が強いとも明言しました」と語っている。ベネット氏にとって難しい決断だったが、生きるためには最善の選択肢だったという。結果、手術は成功し、容体は安定している。息子のデイヴィッドは「私たちも父自身も現在のところ、前に進むために行った決断に満足しています」と述べた。

Text by 青葉やまと