「画期的」「危険な前例」奴隷商人像の引き倒し、無罪評決に賛否 英国

Ben Birchall / PA via AP

◆法律を超えた判断? 評決は特別
 無罪評決に批判の声もある。サッチャー元首相の元側近で現在はヘリテージ財団のディレクターでもあるナイル・ガーディナー氏は、この評決は極めて危険な前例になるとし、暴徒に青信号を与えることになると語った(テレグラフ紙)。またグラント・シャップス運輸相は、イギリスは公共物の破壊が許される国ではないとし、物事を変えたいなら選挙や嘆願という方法があり、器物損壊で達成するものではないとした(イブニング・スタンダード紙)。

 ボリス・ジョンソン首相は評決へのコメントは避けたが、「我々の周りには複雑な歴史的遺産があり、良くも悪くも歴史の多様性のなかで、歴史を反映するものになっていると感じる」とし、歴史を変えることはできず、変えようとすることは間違っていると記者団に話した(AFP)。

 こういった意見に対し、被告の一人であるグラハム氏は、この評決の意味はすべての銅像撤去を始めるべきということではなく、あくまでも「コルストン崇拝」を終わらせるために戦ってきたブリストルだからこそ出た評決だと強調している。(ガーディアン紙)

 さらに同氏は、今回の事件は抗議の価値と力を実証したと主張。撤去された像の金銭的価値は、撤去前に比べ50倍になったと美術鑑定士が評価しており、像の文化的・歴史的価値が高まったと述べる。像は歴史と学習のためのツールとしてはるかに有用なものとなっており、自分たちの行為は歴史を消すものと批判されているが、むしろ隠されてきた歴史に光を当てるものだと主張した。(同)

◆陪審員制度に問題なし 今後は法改正で対応か?
 人権派弁護士のアダム・ワグナー氏は、今回は陪審員の決定であり、それ独自の事実に基づいているため、法的先例になるものではないと述べた。時として陪審員の評決は「社会的な圧力開放弁のようなもの」になることもあるとしている(BBC)。政治家、警察関係者のなかにも、陪審員制度を尊重し、評決は受けいれられるべきだという意見があった。

 一方、英議会では、公共物への損害によって起こされる苦痛を考慮し、現在より厳しい罰則を科すことができる新法案が精査されている。イブニング・スタンダード紙によれば、墓石や記念碑などに置かれる花や花輪などにまで適用されるということで、活動家には厳しい内容となっている。

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Text by 山川 真智子