「画期的」「危険な前例」奴隷商人像の引き倒し、無罪評決に賛否 英国

Ben Birchall / PA via AP

 2020年6月、イギリスのブリストルで、17世紀の奴隷売買に深く関与し富を築いた商人エドワード・コルストンの像が破壊され海に投げ込まれた。事件に関与した4人が起訴されたが、1月5日に陪審員裁判で無罪評決が出された。英植民地時代の歴史に踏み込んだ画期的評決とされる一方、同様の行為を正当化する危険性も指摘されている。

◆歴史の闇に抗議 陪審員裁判で無罪
 コルストン像破壊事件は、アメリカでジョージ・フロイド氏が警官によって殺害された事件をきっかけに起こった反人種差別デモが拡大するなかで起きた。しかし単なる便乗ではなく、ブリストルでは30年前から像の撤去を求める運動が続いていた(BBC)。

 無罪を勝ち取った被告側の弁護団は、数万人を奴隷にし、推定1万9000人の命を奪ったとされるコルストンの歴史における役割を考えれば、被告らの行為は犯罪には当たらないという主張をしていた。4人の被告のうちの一人であるリアン・グラハム氏はガーディアン紙に寄稿し、自身の行為が間違っていたと思ったことはなく、自分が犯罪者だと思ったことはないと断言。今回の陪審員が自分と同じ結論に達したことは素晴らしいと述べた。

 被告側を支援し、奴隷制の歴史に関する証拠を提供した作家でマンチェスター大学の教授デビッド・オルテガ氏は、本当の犯罪は大量殺人者の像が125年間も存続したことだというのが陪審員の認識だと説明。善悪も含めすべての歴史を認めるという長く困難な旅の途中に出た画期的な評決だとした(BBC)。

 イギリスで初めて当選した黒人市長でもあるブリストルのマーヴィン・リーズ市長は評決を歓迎。町からコルストンの名前を消すことは人種差別との戦いのほんの一部に過ぎないとし、今後も人種間の不平等是正に取り組む考えを示した。

Text by 山川 真智子