タイム誌「今年の人」イーロン・マスク氏に米国人がしらける理由

Time via AP

 アメリカを代表するニュース誌タイムでは毎年12月、その年に最も活躍した、または良くも悪くも最も注目を集めた人を「パーソン・オブ・ジ・イヤー(今年の人)」として選出するのが伝統だ。これに選ばれたからといってもとくに大きな利点があるわけではないが、話題に上ることは確実といえる。2016年にこの賞に選ばれたドナルド・トランプ氏がこの賞に固執していたことは有名で、トランプ氏所有の複数のゴルフ場が同氏が選ばれたという偽物の表紙を作って飾っていたというもある。

 南アフリカ出身で、テスラとスペースXを率いるイーロン・マスク氏が今年選ばれた理由は、彼がアマゾンのジェフ・ベゾス氏を抜いて世界一リッチな人となったという事実が大きいだろう。またCBSニュースによると、同氏が選ばれた理由の一つに、今年一般市民向けの宇宙旅行を実施するなどして多大な影響力を発揮したことがあるという。
  
◆宇宙旅行どころではないアメリカ
 しかし2020年から2021年にかけては、アメリカでは新型コロナウイルス感染拡大はもちろん、現在はクーデターと認識されているトランプ前大統領の大統領選敗北後の大騒動や、新型コロナの新株流行、共和党による投票権や女性が中絶手術を受ける権利への攻撃、そしてインフレーションによる物価上昇など、2021年のアメリカはまさに政治的混乱の連続だった。

 正直なところ一般のアメリカ人にとって、一部の大金持ちが宇宙旅行に行けるようになったなどというのはどうでも良いことで、まずは地球上にいる自分たちの生活、そして国家の存続が優先なのである。もちろんイーロン・マスクが有名であることをよく理解してはいるが、これだけトランプ氏と新型コロナウイルスで大騒ぎした1年なのに、彼が「今年の人」に選ばれたことで、疑問を抱く人々が多かったようで、とくにツイッターでタイム誌の選定について疑問を投げかける投稿が相次いだ。その多くは、新型コロナウイルスのワクチン開発に多額の寄付をしたアメリカ人歌手のドリー・パートンや、トランプ支持者の攻撃から連邦議会と議員たちを守ったキャピタル・ポリスの警官たちに与えられるべきだ、という声だった。

Text by 川島 実佳