アフリカでモデルナのコピーワクチン開発、WHO援助 途上国との格差是正へ

アフリゲンの施設でワクチン開発を進める研究者(10月19日)|Jerome Delay / AP Photo

◆WHO苦肉の策、利益優先の企業に対抗
 これまで富裕国と製薬会社の善意に頼ってきたWHOだが、今回初めて複製ワクチン製造を後押ししたことで、ワクチン供給における格差の深刻さが示されたとAPは述べる。国連が支援する、ワクチンへの公平なアクセスを目的とした取り組みであるCOVAXでは貧困国のワクチン不足は解決されず、製薬会社はワクチンの製法の共有を拒んでいる。

 モデルナのワクチンは、ほかのどのメーカーよりも多く富裕国に出荷されているという。同社との購入契約を結んだ数少ない中所得国のほとんどはまだワクチンを受け取っておらず、タイやコロンビアといった国は欧米より高い金額で契約しているという。さまざまな医薬品事業を手掛ける他企業とは異なり、モデルナは新型コロナワクチンのみを販売しており、会社の未来はワクチンの商業的成功にかかっている。しかしすでに同社の市場価値は今年になって約3倍となり、創業者2人と初期の投資家は、10月のフォーブス誌の「米国で最も裕福な400人」にランクインした。感染症の専門家からは、同社はまるで投資のリターンを最大化すること以上の責任はないかのような振る舞いをしている、という声も聞かれる。(ニューヨーク・タイムズ紙、以下NYT)

 モデルナ側は、全力を尽くしても生産能力には限界があると釈明している。しかし米国政府の財政的、科学的支援を受けてワクチン開発を成功させただけに、同社の非協力的な姿勢にはバイデン政権も不満を募らせているという。米政権は同社に対し、米国内での生産増強、海外でのライセンス生産によって途上国向けにも対応するよう要求している。(NYT)

◆徒労に終わるかも……既存ワクチン生産拡大か?
 WHOが複製にmRNAワクチンを選んだのは技術を高く評価しているからだが、ファイザーではなくモデルナを採用したのは現実的理由からだった。モデルナはパンデミックの間は知的財産権を行使しないとしており、ほぼ同じワクチンを製造してもメーカーが訴訟に直面することはないだろうとフリーデ氏は説明している(NPR)。もっともモデルナは積極的に情報を提供しておらず、もし同社が知識を共有してくれれば、開発は格段に楽になると専門家は指摘している。

 モデルナとファイザーは低所得国へのワクチン供給拡大の措置として、アフリカに自社工場を建設する計画を発表している。また、分析会社エアフィニティのラムサス・ベック・ハンセン氏によれば、既存のワクチンメーカーが生産を急拡大させており、この調子だと来年までには既存の工場から世界に十分な量が供給されそうだという。(NPR)

 しかしアフリゲンなどの取り組みは無駄ではなく、次のパンデミックへの備えと考えるべきだとハンセン氏は述べている(NPR)。アフリゲンの若い科学者たちは、mRNA技術をワクチンだけでなく別の疾病に利用できるという期待感からモチベーションを高めており、科学の未来にとっても意義ある挑戦となっている。

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Text by 山川 真智子