「人為的感染」でコロナ研究、英の治験に賛否 デルタ株も準備

NIAID-RML via AP

◆アメリカでは実現せず 死の危険をどう見る?
 この治験には国内外から批判が出ており、世界保健機関(WHO)のアドバイザーやアメリカの政府高官は、潜在的な利益があるとしても危険を冒す正当な理由となるのかどうか疑問を投げかけている。大きな問題とされるのが、被験者が危険な状態に陥った場合、確立された治療法や救命処置がないことだ。有効なワクチンがなかった昨年であればチャレンジ治験は意味があったかもしれないが、今年は倫理的理由から反対だとペンシルバニア大学の生命倫理学者、エゼキエル・エマニュエル氏は述べている。(WSJ)

 アメリカでも同様の治験計画があったが、危険すぎるとして行われていない。イギリスでも意見は割れ、オックスフォード大学の医学部の学者グループが、大学の評判を落とす可能性があるとして、中止を政府の医療アドバイザーに働きかけたという。(同)

 チャレンジ治験を担当する研究者は、これまでのデータから基礎疾患がない場合は若年層では無症状かつ軽度の感染が一般的で、安全性を確保できると判断したと述べる。重症化を防ぐため、モノクローナル抗体による治療法や、抗ウイルス剤なども用意された。回復後の後遺症の問題についても、軽症の若年者で3ヶ月以上症状が続くことはまれだという心強いデータが示されているとしている(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)。現在のところ40人以上が被験者となり、深刻な安全上の問題は起きていないということだ。

◆実験は続く 今後はデルタ株でも
 もっとも、現在の感染の主流はデルタ株に置き換わっており、初期の株とは関連性が低下してしまっていると呼吸器系感染症の専門家、ガース・レープポート氏はWSJに述べる。そのため研究者とhVivo社は、実験室でデルタ株を培養する計画だ。ワクチンや治療法を直接試すため、デルタ株のヒトへの使用が承認されれば、大きな利益になると期待する声もある。最終的にはイギリスのチャレンジ治験で使用される可能性があるということで、さらなる論争の種になりそうだ。

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Text by 山川 真智子