「人為的感染」でコロナ研究、英の治験に賛否 デルタ株も準備

NIAID-RML via AP

 健康な人を意図的にウイルスやほかの病原体に感染させ、病気の解明とワクチンや治療法の研究に役立てる「チャレンジ治験」は、これまで何度も行われてきた。自然感染では得られないデータを得る目的で、現在イギリスは新型コロナウイルスでこの治験を行っている。しかし確立した救命治療法がないなか、一歩間違えば参加者を死に至らしめる危険性があると懸念されている。

◆政府が推進 健康な人にウイルスを投与
 イギリスのチャレンジ治験は2020年4月から計画が始まった。オックスフォード大学とインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者、政府任命のワクチン・タスクフォースの職員、そしてロンドンに拠点を置くバイオテックで薬物試験の請負を専門とするhVivo社が主導している。英政府はこの治験のため昨年4000万ドル(約44億円)以上の資金提供を約束し、倫理、規制の審査を開始。2月に医療倫理委員会によって承認された。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、WSJ)

 治験参加者は危険因子を持たない18歳から30歳に限定される。治験の一部を率いるオックスフォード大学のヘレン・マクシェーン氏によれば、使用されるのは臨床的に最もよく知られている武漢で発生した株で、人体接種用に特別に製造されたものだという。被験者にはこれまで感染したことのない人と感染歴のある人が選ばれており、ウイルスを投与する2日前までに検査入院し、投与後は少なくとも14日間感染力がなくなるまで隔離される。その間、PCR検査、肺、心臓、血液などを検査し、24時間体制で医療スタッフが厳重に監視する。(サイエンティスト誌

 治験参加者には報酬が支払われる。その一人にインタビューしたWSJによれば、最終的には6000ポンド(約90万円)ほどで、1年間の追跡検査と電話調査、そして本人が同意した並行研究分が含まれている。

Text by 山川 真智子