後発ワクチン治験、離脱する被験者が増加 承認ワクチン接種可能になり

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 世界で新型コロナワクチンの接種が進んでいるが、後発のワクチンの治験も進行中だ。ところが治験の途中段階で、参加者の離脱やモラルを欠く主張、行為が増えているという。その背景には個人の事情があり、利他主義や倫理観だけでは続かない治験の難しさが示されている。

◆進捗遅かった……。参加者の苦渋の決断
 ワクチンの治験は、通常3段階で行われる。とくに大規模に有効性や安全性を確認する第3相試験では、ワクチンを打つ集団とプラセボ(偽薬)群に分けて比較するため、数万人単位のボランティアが参加することが多い。科学雑誌サイエンスの編集者、Martin Enserink氏も、次世代メッセンジャーRNAワクチンであるキュアバック社のワクチン治験に参加したが、最近になって離脱したという。

 同氏がアムステルダムでの治験に参加したのは1月後半だ。ワクチンかプラセボかはランダムに決められるため、どちらを打たれるかはわからなかった。ただ、当時オランダの感染状況の深刻さや欧州でのワクチン不足などを考慮し、確率半々のギャンブルでも参加の価値があると考えたという。また、ワクチン開発に少しでも貢献できることも動機になったとしている。

 同氏は終了まで治験に残るつもりだった。ワクチンが有効と評価されれば、打たれたのがワクチンだった場合問題はないし、プラセボだったとしても後日ワクチンが接種される約束になっていたからだ。ところが、有効性の判断材料となる中間解析の最初のデータは、予定日になっても発表されなかった。その間にオランダのワクチン接種が進み、同氏にも接種の順番が近々回ってくる可能性が高まった。

 ここで同氏は治験を離脱するかどうか大いに悩み、知り合いの科学者たちに相談した。彼らからは、同氏のこれまでの治験協力がすでにかなりの貢献になっていること、プラセボを打たれていた場合は感染し他人にうつして死に至らしめる可能性もあることを指摘されたという。結局、同氏は自治体でワクチン接種が可能になった時点で治験を離脱。プラセボが打たれていたと知らされたため、5月下旬にファイザー製を接種した。

Text by 山川 真智子