米、コロナ対策でイベルメクチン服用する人が増加 当局は危険性を警告

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◆FDAが危険性を警告
 米食品医薬品局(FDA)は8月21日、ツイッターに「あなたは馬ではない。あなたは牛ではない。本当にあなたたち、やめてください」と投稿。もちろん、これはイベルメクチンを服用している人々に向けての投稿である。

 FDAではウェブサイトに「なぜCOVID-19(新型コロナ)の治療または予防にイベルメクチンを利用すべきでないか」という記事を掲載。「FDAではイベルメクチンを人間の新型コロナ治療・予防薬として承認していない」「大量のイベルメクチンを服用するのは危険であり、深刻な害を及ぼす」「もし医師からイベルメクチンをFDAに承認された利用法のために処方されたら、信用できる場所で購入し、処方箋の通りに服用すること」そして「動物のための薬を自分で使わないこと。動物用のイベルメクチンは人間用とはかなり異なる」などと述べている。

◆右派パーソナリティの影響
 なぜ人々が動物用のイベルメクチンを使うことになったかと言えば、そこには右派メディアと共和党政治家からの誤情報が絡んでくる。CNNによると、FOXニュースでパーソナリティを務めるタッカー・カールソン、ローラ・イングラム、ショーン・ハニティーは、自身のトーク番組でマスクやワクチンの有効性に疑問を呈しつつ、イベルメクチンの有効性について語ったという。

 同記事によると、ミシシッピ州では動物向けのイベルメクチンを服用した人々からの救急要請が増加しており、同州保健局では「動物向けのイベルメクチンを使わず、必要な場合は医師から処方されたものを使うことを指示されるべき」「動物向けのイベルメクチンは動物の体に合わせて凝縮されており、人間が使うのは危険」と公表した。イベルメクチンはFDAに新型コロナの予防・治療薬として承認されていないため、たとえ人間用でも正当な理由がない限りは医師から処方されることはない。そのため人々は家畜専門店に走ったのだろう。

 2020年にはトランプ前大統領が新型コロナウイルスの治療法として漂白剤を飲むことを勧め、その際も漂白剤を飲んだ支持者が少なからず存在したという。このようにアメリカにはいま、正統的医療機関や政府に対して不信感を持ち、一部の共和党政治家や右派局のトーク番組ホストの言うことを鵜呑みにして行動した人々が、その結果として健康を害する、という現象が起きている。アメリカで新型コロナの感染者がなかなか減らないのは決して表面的な理由だけではない。FDAやCDCが警告を発したところで、このような人々の盲信的な心理が続く限り、効き目はなさそうだ。

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Text by 川島 実佳