有毒の偽コロナ治療薬を買い求める人々 ボリビア

AP Photo / Dico Solis

 新型コロナウイルス流行により深刻な打撃を受けているボリビアのある都市では、毎朝、多くの人が長い列をなしている。深刻な表情をした人々が求めるのは、有毒な漂白剤である二酸化塩素の入った小瓶だ。新型コロナウイルス感染症をはじめとするあらゆる病気に効くという偽情報が広められてきた。

 摂取することで人体に害が及ぶと知られる消毒剤の危険性について、ボリビア保健省は警戒を促し、首都ラパスでは少なくとも5名が二酸化塩素による中毒にかかったと明かした。それでもなお、コチャバンバ市内の行列は解消されない。

 病院で5名の治療にあたっているアントニオ・ビルエス医師によると、1名は自身が新型コロナウイルスに感染していると誤って信じ込み、二酸化塩素や寄生虫感染症の治療薬を摂取したことにより肺組織の炎症、つまり肺炎を発症したという。ほかの4名については、快方に向かっていると話す。

「保健省は、科学的根拠のないものを推奨するというリスクを冒すことはできません」と、ミゲル・アンヘル・デルガード高官は述べる。

 一方で、野党が多数派を占めるボリビア国会は、二酸化塩素の使用を促進している。「新型コロナウイルスの感染予防と治療のため、二酸化塩素水溶液を緊急で製造、宣伝、提供、使用すること」を許可する法案が上院にて承認された。

 この法案の成立には、新型コロナウイルスの検査で陽性反応が示され、隔離措置をとっているヘアニエ・アニェス暫定大統領の承認が必要だろう。アニェス暫定大統領は、不正選挙により2019年に辞任に追い込まれたエボ・モラレス前大統領を支持する野党議員と議論を戦わせてきた。

 野党支持層の強いコチャバンバでは、恐怖心を抱く住民の多くが、試しに二酸化塩素を摂取している。新型コロナウイルスによる死者数は、同地域で約440名だと公表されており、ボリビア全死者数の25%を占める。実際の犠牲者数はさらに多いと考えられている。

「私は恐怖を感じています。試さないわけにはいかないのです」と、教師であるアンドレス・ポマ氏(34)は話す。新型ウイルスに感染しても、窮地に立つ医療サービスに救いを求めることはできないと悲観している。「私は一体どうすればいいのでしょうか。病院、もしくは自宅の玄関先で死ぬのを待つしかないのでしょうか」

 コチャバンバで店舗を経営するフェデリコ・アンサ氏は、数滴ずつ摂取する二酸化塩素をすでに数千人へ販売した。「私も妻も摂取しましたが、何も起こりませんでした」と、同氏は話す。

 県の保健当局は、この1週間で10名が二酸化塩素による中毒にかかったと発表したが、アンサ氏によると、薬品摂取後に具合の悪くなった客はいないという。

 コチャバンバ県のエステル・ソリア知事は、新型コロナウイルス感染症の治療に、二酸化塩素や伝統薬の使用を認可する法案を支持すると表明した。また、コチャバンバ市のホセ・マリア・レジェス市長は、感染者の治療のため、漂白剤を無料提供することに賛意を示している。

 一方で、コチャバンバ科学協会のフェルナンド・ランゲル会長は、その有毒物質は「奇跡的なもの」であり、癌やエイズ、マラリアなどの病気を治すものだと考える古い信念があるものの、「あらゆる病気を治すことを証明する科学的研究はない」と苦言を呈している。

 新型ウイルス流行が始まって以来、二酸化塩素をはじめとする数多くの偽治療薬が、インターネット上のごく一部で推奨されてきた。

 2020年4月、フロリダ州南部の連邦裁判所は、コロンビアを拠点とする団体「健康と癒しのジェネシスII教会」に対し、二酸化塩素を原料とする「ミラクルミネラルソリューション(MMS)」のアメリカ国内での販売を停止するよう命じた。検察によると、ジェネシスII教会は、新型コロナウイルス感染症や自閉症、その他慢性疾患に効果のある治療薬としてMMSを販売していたという。

 アメリカ食品医薬品局は以前より、MMSによって吐き気や嘔吐、下痢、深刻な脱水症状を引き起こす可能性があると警鐘を鳴らしてきた。

 トランプ大統領は4月に、「新型コロナウイルス感染症と闘うために、消毒剤を注射もしくは経口摂取するのもよさそうだ」と発言し、医師や保健当局からの非難を浴びている。

By DIEGO CARTAGENA and PAOLA FLORES Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP