デルタ株流入のNZ、「ゼロ戦略」見直しは不可避?

Robert Kitchin / Pool Photo via AP

◆徹底排除も苦戦? 戦略変更を求める声も
 デルタ株の流入はニュージーランド政界にも衝撃をもたらし、その扱いをめぐっては、意見の相違がみられる。アーダーン首相は、これまで通りの徹底したウイルス排除の方針は総意に基づくもので、ワクチン接種途中のいまは最も安全な選択肢だと主張している(ロイター)。8月初めに国境再開計画を発表しているが、そのときも「一人でも市中感染が出れば潰す」と述べ、排除戦略継続の方針を示していた(ガーディアン紙)。

 しかし、新型コロナ担当のクリス・イプキンス大臣は、デルタ株は政府の長期的な計画に大きな疑問を投げかけたと述べ、排除戦略の有効性を疑問視する。感染者は24時間経過しないうちに次の人に感染させており、これまでのパンデミックではなかったことだと指摘。既存の防御では不十分で、新たな対応を検討せざるを得なくなったとしている。(ガーディアン紙)

 これまでの排除戦略の成功は、皮肉にもワクチン接種の遅れにつながっている。ニュージーランドの510万人の人口のうち、完全接種済みと言えるのは2割ほどだ。野党国民党の党首、ジュディス・コリンズ氏は、接種に緊急性を持たせなかったため、デルタ株流入に備えることができなかったと批判している。また、アーダーン首相のこれまでの対応を好意的に伝えていた国内メディアからも、反対意見が出ているとロイターは伝えている。

◆個人の犠牲が大きすぎる、ウィズ・コロナへの転換を
 ニュージーランドのゼロ・コロナ戦略はもう限界だという見方は海外からも出ている。これまで同様の対策を取って感染を抑えてきたオーストラリアは、このところ感染増加に悩まされている。モリソン豪首相は、永遠にデルタ株を防ぐことができると考えている国があるなら「ばかげている」と述べ、ニュージーランドがいまのアプローチを続けられるはずはないと述べた(ロイター)。オーストラリアはワクチン接種率が8割に達した時点で、ウイルスとの共存に転換する考えを示している。

 英テレグラフ紙のコメンテーターで公共政策研究者のマシュー・レッシュ氏も、同じ戦略の維持で成功するとは限らないと主張する。感染がゼロになるわけではないが、現在はワクチンで入院や死亡のリスクを減らせる。それなのに、少人数の感染ですぐにロックダウンし国境閉鎖を維持することに意味があるのかと疑問を呈している。

 さらに政府が今後計画している国境再開も、ワクチン接種した人でもウイルスを持ち込むリスクがあると気づけば棚上げになるかもしれないと指摘。ニュージーランドの戦略が意味する「ゼロ・リスク」は個人の生活を妨害する無限の正当性を国家に与えるものだとし、いまのやり方ではリベラルな社会の維持は不可能だとしている。

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Text by 山川 真智子