突然の「残業代帳消し」「契約終了」…コロナで失業したスイスで働く日本人たち

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◆「残業帳消し」に同意しろと迫られ
 ロックダウンの間、美月さんはスイス政府の救済措置を受け、給与の80%を得ることができた。ロックダウンが解除されて職場へ戻ったとき、店長から、オーナーの意向が書いてある書類にサインするようにと言われた。そこには「まだ消化しきれていない美月さんの残業130時間が帳消しになることを了承する」と書かれていた。

 理由は、コロナ禍が長期戦で、レストランの収益が減ることが目に見えていたためだった。ロックダウンまでの経営は非常に順調に見えたが、内実はすでに火の車に近く、レストランの改装費はオーナーが自腹を切ったということも聞かされ、とにかく節約したいのだと説明を受けた。

 美月さんは、好んで毎日数時間も残業していたわけではない。せざるを得ない状況だったからだ。今後、確かに苦しい状況は続くと理解したものの、どうしても帳消しは受け入れられず、サインしないと伝えた。

 返事をもらったオーナーは、美月さんのところへやってきて、開口一番「サインしてくれなくて、残念ですよ」と期待通りにならなかったことを嘆いた。それから、美月さんを雇ってあげているのだからありがたく思うべきだし、会社は社会手当も払ってきてあげたし、ロックダウン中も美月さんは給与の80%を得られたではないかと嫌味を言った。また、残業させる状況は自分の経営力が招いたものでもあるのに、「こんなに残業ばかりして」と苦情も加えた。

Text by 岩澤 里美