全頭殺処分命令で混乱、デンマークの「ミンクゲート」 予防のため殺される動物たち

Mads Claus Rasmussen / Ritzau Scanpix via AP

◆突然変異「クラスター5」
 最も状況が深刻なのはミンク毛皮の世界最大の輸出国であるデンマークだ。同国にはミンク飼育場が1000以上もある。デンマークでは、当初、感染が確認された場所でのミンクの殺処分のみを行っていた。ところが、11月頭に、のちに「クラスター5」と名付けられることになる変異型が保健当局によって特定されたことで事情が変わる。デンマークでは、6月から11月頭にかけて、ミンクによる人へのCovid-19感染が214例特定されたが、そのうち12例がクラスター5に関するものだった。「このクラスター5に関しては、これまで観察されていなかった突然変異または変化の組み合わせ」(WHO、11/6)があり、まだすべては解明されていないものの、この変異型は「中和抗体への反応が中程度に低下」(同)することが観察された。このことから、ミンクを介する変異が、開発中のワクチンの効力を減らす恐れがあると判断されたのだ。これを重く受け止めたフレデリクセン首相は11月4日、国内のすべての農場のミンク(推定1500~1700万頭)の殺処分を発表した。

◆デンマークのミンクゲート
 ところがその後、「健康なミンクの殺処分を命じる」という政府の決定が法律違反であることが判明する。「慌てた政府は緊急に新たな法律を可決しようと試みる」(フランスアンフォ、11/23)が失敗。イェンセン農業大臣は、違法な指導をした責任を取って11月18日辞任した。これらの混乱は政権批判も呼び起こし、フレデリクセン首相は、「大げさな予防措置が多く」「権威主義的」だと批判を浴びている。

 また、当然ながら、世界の28%のミンク毛皮を供給する同国ミンク関連業者も抗議運動を起こしている。たとえば、11月21日には全国からトラクター500台が首都コペンハーゲンに集まり数時間にわたって抗議デモを決行した。ル・モンド紙(11/23)によれば、農業従事者だけではなく漁業関係者もミンク飼育業者に賛同し、港で船の霧笛を鳴らして意思表明した。

Text by 冠ゆき