コロナ陰謀論を唱える映画、仏で物議 規制と啓蒙で揺れるジャーナリズム

Michel Euler / AP Photo

◆ファクトチェック
 フェイクニュースの蔓延を重く見るメディアは、同映画公開後それぞれにファクトチェックの記事を出している。たとえば、ル・モンド紙(11/12)は映画公開翌日にはすでに映画内で述べられた7つのポイントについて、事実と異なることを具体的に検証して見せている。AFP通信(11/14)もまた、4つのポイントについて情報がフェイクであることを示している。

 映画内でインタビューを受けた人物のなかにも戸惑いが広がっている。元保健相ドゥスト=ブラジは、公表されてから初めて見た「映画の内容に大変なショックを受け、自分の発言部分を消すように要求する」と発言した(フランス・アンフォ、11/13)。同じくインタビューを受けた社会学者パンソン=シャルロは、ツイッターで「この映画に登場したことを後悔する」と表明。実際、1時間受けたインタビューのなかで使われたのは2分だけで、映画の都合の良いように「私の発した言葉が道具として使われていることに愕然とした」と述べている(RTL、11/13)。

◆問われるジャーナリズムのあり方
 フェイクニュースと陰謀論にまみれた映画とあって、公開中断に踏み切るサイトが出るのも納得できる。しかし、その一方で、頭ごなしの規制に危機感を抱く少数派の声もある。ジャーナリスト、ナターシャ・ポロニーはそのひとりで、この映画への反響を無視してはならないと訴える。「何よりも大切なのは、コロナウイルス対策について正当な疑問や、まだ答えが出ていない質問を投げかけることができることだ。そうでなくては、何かやましいことがあるのだと思われることになる」というのがその理由だ(マリアンヌTV、11/17)。

 確かに、これは臭いものだからと蓋をしてしまうだけで、根本が断ち切れるわけではない。陰謀論についての扱いは非常に難しく、注意を促す記事のせいで、かえって陰謀論の存在を広めてしまうというリスクもあり得れば、規制をしたらしたでせっかくの啓蒙記事が人目に触れずに終わるという事態にもなる。実際、Qアノン陰謀論については、ネット上の規制が課せられるようになったため、警鐘を鳴らす記事も陰謀論サイトと同じように検索に引っかからなくなってしまっているのが現実だ。

 Qアノンの例にも明らかなように、フェイクニュースや陰謀論に惑わされる人の数が膨大である現実のなかで、メディアはフェイクニュースや陰謀論の露出をどこまで許すべきなのか。難しい舵取りが必要とされている。

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Text by 冠ゆき