Qアノン:SNSが表舞台に押し上げた陰謀論 政界にも深く浸透

聴衆の前で演説するQアノン信者(11月5日)|Dario Lopez-MIlls / AP Photo

 全世界で児童買春組織を操る秘密結社ディーブ・ステートと、それに立ち向かう救世主トランプ米大統領。荒唐無稽にしか思えないこの構図を心の底から信じる人々、それがQアノン(キューアノン)だ。メンバーのなかには、彼らの言う「正義」のために暴力や殺人もいとわない者さえいる。匿名掲示板から始まったこの「社会運動」は、いまでは表舞台の政界をも侵食している。その拡大を助けたのが、フェイクニュースとSNSの二大柱である。

◆Qの登場:2017年10月28日
 アメリカで、Qは機密情報へのアクセス権限を持つ政府高官を指す。そのQを名乗る人物が最初に匿名掲示板4chanへ書き込みをしたのは、2017年10月28日のことだった。「ヒラリー・クリントンは逮捕される」という一文から始まる一連の書き込みで、Qは「米国第45代大統領が、近いうちに子供売買と小児性愛の国際犯罪組織を消滅させる」という理論を展開している。Qによれば、この国際犯罪組織に関与する面々には、ヒラリー・クリントン、バラク・オバマ、ジョージ・ソロス、ロスチャイルド家のほかハリウッドスターたちが数えられる。書き込みのタイトルには、それに先立つ10月6日のトランプ大統領の発言から取った「嵐の前の静けさ」という言葉を使った。つまり、「嵐」=国際犯罪組織の摘発だと暗に示したのだ。

◆最初の殺人事件
 この陰謀論に引き寄せられた人々が謎の人物Qのまわりに群がり、Q+anon(アノニマス=匿名者)のコミュニティ、Qアノンを形成していく。メンバーのなかには、YouTubeやフェイスブックなど表のSNSで陰謀論を喧伝する者も出て、Qアノンコミュニティは急速に膨れ上がっていった。熱狂的な信奉者のなかには、その「使命」のために犯罪行為に走るものさえいた。たとえば、2019年3月13日に起きたアンソニー・コメロによる殺人がそれだ。コメロは、被害者をディープステートのメンバーだと信じこんでおり、また自分自身もトランプ大統領の警護に選ばれた者だと信じていたのだ。逮捕後開かれた裁判では左の手の平に書いた「Q」の文字を見せつけるシーンもあり、殺人を犯してなお、陰謀論への傾倒が揺るいでいないことが見て取れる。

Text by 冠ゆき

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