コロナ陰謀論を唱える映画、仏で物議 規制と啓蒙で揺れるジャーナリズム

Michel Euler / AP Photo

◆世界的陰謀論
『ホールドアップ』が誘導する世界的陰謀論とは、一言でいえば、エリート層が世界的独裁を企てているというものだ。映画によれば、「腐敗したエリートたち」は「インフルエンザの小さいもの」に過ぎない新型コロナについて恐怖を煽ることで「人々をコントロール」し、マスクや外出制限を強要して自由を奪い去り、効果があるとわかっているヒドロキシクロロキンを禁止し被害を拡大させた。すべての元凶はそれらのエリートたち、製作者によれば、マクロン仏大統領、ベラン仏保健相、ビル・ゲイツ、ロックフェラー、ファウチ博士、ジャック・アタリ、パスツール研究所、WHO、医薬品会社、GAFAM、ロイターやAFP通信などのメディアらということになる。

 映画の手法は巧妙だ。3時間近く、不安を盛り上げる音楽をバックに、タクシー運転手からノーベル賞受賞者までさまざまな立場の人々が画面に現れ証言していく。しかし実のところは、一人の発言は数十秒、時には数秒という短さに切ってつなげられており、発言のコラージュが延々と続く印象だ。ただし例外もある。「私たちは役に立たない存在で、私たちがどう生きるか死ぬかの権利さえ、彼ら(エリート)が決めるんだわ」と助産婦が涙を流しながら叫ぶ場面は、5分近くノーカットで流している(フランス・アンフォ、11/13)。

 このように善と悪の二元論でわかりやすい構図を指し示し、不安と恐怖を盛り立てる方法は、人にフェイクニュースや陰謀論を信じさせる近道だ。

◆既存の不信感を利用
 さらに、人が「すでに信じていることに近い内容に呼応しやすい」点も見事に生かされている。たとえば、マスク着用、クロロキン効果、ワクチン、個人情報問題だ。

 フランスでは、マスク着用の効果について、政府が数ヶ月で見解を180度転換し、国民を混乱に陥れたという経緯がある。ヒドロキシクロロキン/クロロキンの抗新型コロナウイルス効果についても、専門家のあいだで見解は二転三転。なかでも権威ある医学誌ランセットが一度掲載した論文を撤回する事態となった「ランセットゲイト」に、何を信じればいいのかわからなくなった人も多いはずだ。『ホールドアップ』は、すでに人々が不審に思っていたであろうこれらの事件を取り上げ、徹底的に叩いている。

 また、フランスはもともとワクチン接種に懐疑的な国民性だ。2019年の調査も「フランス人の3人に1人はワクチンを信頼しておらず(中略)、これは調査対象となった144ヶ国のなかで最も多い」割合だと示している(レ・ゼコー紙、2019/6/19)。抗新型コロナワクチンがいかに危ういかと匂わせる同映画は、ワクチン懐疑派には渡りの舟となるはずだ。さらに、仮想通貨はエリートたちが一般大衆を管理し、奴隷化するための道具だとする論法も、個人情報に過敏となった現代人を刺激しないはずがない。

Text by 冠ゆき