新型コロナに本当に効くのか 抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」めぐる騒動

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 パンデミックの早い時期から、中国やフランスでCovid-19への効果が唱えられてきたクロロキン。ごく最近では、Covid-19感染が判明したブラジルのボルソナーロ大統領が7月7日、自ら抗マラリア薬ヒドロキシクロロキン(クロロキンの誘導体のひとつ)を服用する動画を公開した。果たしてクロロキンおよびヒドロキシクロロキンには抗Covid-19効果が本当にあるのか? 二転三転し続けるクロロキン評価を整理したい。

◆クロロキン/ヒドロキシクロロキンの擁護者と慎重論
 クロロキンは、マラリアの予防薬と治療薬生産に使われる分子で、70年前から用いられている。一方、ヒドロキシクロロキンは、関節リウマチや狼瘡などの自己免疫疾患に使われる。

 世界に先駆けクロロキンをCovid-19治療に用いたのは中国で、2月4日にはネイチャー誌に「(クロロキンは)試験管内においては、2019-nCoV(新型コロナウイルス)感染の制御に非常に効果的」であると発表している。これを受け、新型コロナ以前よりクロロキンの抗ウイルス効果の可能性に注目していたフランスの感染症専門医ラウト教授は、クロロキンの効果をさまざまなメディア(たとえばFranceInfoインタビュー)を通して喧伝し、一躍時の人となった。3月には同教授もCovid-19患者24人を対象にヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン(抗生物質)を使った臨床試験を行い、4分の3にあたる20人に効果が認められたと発表したが、同時に死亡者も一人出している。この研究は、被験者の少なさ、比較できる被験者グループを立てていないこと、データが公開されていないことを理由に、多くの科学者から信頼性に欠けるとみなされている(ル・モンド紙3/24)。

 もう一人の積極的なクロロキン擁護者はトランプ米大統領である。同大統領が3月19日、メディアを通して行った、抗マラリア薬が新型コロナに効くという旨の発言は、同国のクロロキンとヒドロキシクロロキンの処方数を46倍に引き上げたほどの効果があった(ニューヨーク・タイムズ紙4/25)。さらに、5月18日には、トランプ大統領自身もCovid-19感染予防のためにヒドロキシクロロキンを数週間前から服用していると明らかにした(ガーディアン紙5/20)。

 その一方で、複数の医療機関は、クロロキン/ヒドロキシクロロキンの使用に慎重な構えを見せた。フランス医薬品・保健製品安全庁(ANSM)は、3月末から約2週間行った調査の結果、「Covid-19感染患者に使われた薬品に関連する副作用が約100件あった。そのうち79件は重篤なもので、4件は死亡ケースだった」と明らかにし、「ヒドロキシクロロキンは心臓へ影響を及ぼす可能性がある」と警告した(20 minutes 4/10)。欧州医薬品庁(EMA)も同様にクロロキン服用による重大な副作用について警鐘を鳴らしている。またアメリカでも4月21日の時点で「ヒドロキシクロロキンは、従来の医薬品と比べ、新型コロナウイルスによる病に何の恩恵ももたらさない。それどころか、ヒドロキシクロロキンを単独で使用した場合、またはアジスロマイシンと併用した場合の超過死亡が明らかになった」とする研究が発表されている(20 minutes 4/23)。

Text by 冠ゆき