スウェーデン式「集団免疫」戦略はうまくいくのか? コロナウイルス対策

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◆もはや倫理を逸脱? 専門家は反論
 ロックダウンをしないスウェーデン式は、人命をかけた危険なギャンブルだと国内外で批判されてきた。しかし現在の戦略の設計者である、疫学者のAnders Tegnell氏は、最新の感染率、死者数は横ばいになりつつあるとし、戦略の効果が出始めたと地元メディアに述べている。スウェーデンの保健当局の担当者も、新規の感染数、集中治療室の患者数も落ち着いてきたとしている(ブルームバーグ)。

 現在のスウェーデンの状況をどう見るかは、意見の分かれるところだ。スウェーデンの死者数は現在1700人を超えている。4月18日時点では100万人あたり150人で、ほかの北欧諸国のデンマーク60人、ノルウェー30人、フィンランド17人に比べるとかなり多い。しかし、イギリス228人、フランス296人、イタリア384人、スペイン441人、ベルギー490人に比べればずっと少ないと言える(スペクテイター誌)。

 Tegnell氏の考えに賛同する、カロリンスカ研究所の名誉教授で世界保健機関(WHO)の無給アドバイザー、ヨハン・ギーゼケ氏は、どのアプローチが正しいか判断するためには、1年待つべきだとスペクテイター誌に述べる。同氏は、一部の国はいまのところ最悪の流行を回避できているかもしれないが、集団免疫の獲得には程遠いため戦いは長期化する、と述べる。Tegnell氏は、5月中旬にはストックホルムでは10%から30%、またはそれ以上の集団免疫がつくかもしれないと述べ、多くの人が知らずに感染していると見ている。スウェーデン式は実は集団免疫戦略だったようだ。

 イギリスは最初に集団免疫戦略を打ち出したが、インペリアル・カレッジの論文を読んだ後にロックダウンに方針転換した。ギーゼケ氏はこの論文について疑問を呈す。論文はICU病床を急速に増やすことができることを考慮に入れておらず、無症状感染者の数も少なく見積もっている、と指摘。また査読を受けた論文ではなく、通常の科学的慣行から外れていたとする。「科学に基づく」を意識してシミュレーションに頼りすぎたイギリスの方針転換を問題視し、コロナ危機においては「科学」は一つではなく、モデルは推定にすぎないと主張している。

◆コロナとの付き合いは続く 経済を止めないスウェーデン
 HSBCグローバル・リサーチのエコノミスト、ジェームス・ポメロイ氏は、もしもスウェーデンが現在の対策で感染を抑えられれば、ロックダウンを避けたことにより、欧州のなかで最も経済の落ち込みが少なくなるだろうとする(ブルームバーグ)。ギーゼケ氏は、新型コロナウイルスは風邪のウイルスと同様、長期にわたって残ると見ており、最終的にはほとんどの国の死亡率はほぼ同じになると予測する(スペクテイター誌)。そうであれば、経済を残すスウェーデンの選択は賢明だったということになりそうだ。

 もっとも、スウェーデン式が成功しても手放しでは喜べない。スウェーデンでは老人ホームなどの高齢者施設で大感染が起きている。ガーディアン紙によれば、これまでの死者の3分の1がケア・ホームの住人だった。研究者からは、学校や商業施設が閉鎖されなかったため施設の若いスタッフから高齢者に感染が広がった、という指摘もある。高齢者が政府のコロナ戦略の犠牲になったという批判もあり、政府もこの点については大失敗だったと認めているという。

Text by 山川 真智子