ウイグル弾圧の「驚くほどひどい」実態 収容所で拷問、洗脳……西側メディアで非難相次ぐ

Ng Han Guan / AP Photo

◆中国は人道的な「職業訓練センター」だと主張
 中国は西側から非難を浴びた当初は、この強制収容所の存在そのものを否定していた。しかし、3月にジュネーブで開かれた国連人権委員会を前に、中国はいくつかの国の外交官とジャーナリストを指名し、収容所へのツアーを実施した。一行はそこで、収容者たちが英語で歌う「幸せなら手をたたこう」で迎えられた。

 中国は、当該施設は強制収容所ではなく、「寄宿舎学校のような職業訓練センター」だと説明。宿泊施設と職業訓練プログラム、中国語と法律の授業が無料で提供され、新疆ウイグル自治区の人々に近代社会に適応する機会を与えていると主張する。また、これは、「テロとの戦い」の一環でもあり、過激派思想を正すことで、新疆ウイグル自治区では2年以上イスラム過激派によるテロが起きていないと自画自賛する。しかし、実際には収容所は鉄条網で囲われ、施設が大量のスタンガンを購入した証拠も報じられている。

 ニューヨーク・タイムズ紙の社説は、中国は、「大量洗脳と言わざる得ない行為」により、ウイグル人らの「民族的なアイデンティティを排除」していると非難。それは、中国自身が過去に行った文化大革命に匹敵する非人道的行為だとしている。中国は強制収容所での洗脳のほかに、「無料健康診断」の名目で、ウイグル族のDNAの収集に力を入れており、遺伝子的な民族浄化も進めているという指摘も各方面から上がっている。

◆経済力で国際社会の非難を封じ込め
 本来であれば、“同胞”であるイスラム諸国がウイグル支援に乗り出しそうなものだが、中国の経済的なバラマキによりその多くが骨抜きにされ、ほとんど非難の声が上がっていないのが現状だ。かろじて、トルコが非難声明を出したのと、マレーシアが元収容者11人の返還を拒否したことが報じられているくらいだ。

 中国の一帯一路構想の重要なルートになっている隣国のカザフスタンも例外ではない。今月17日、新疆出身で同国のアルマトイで中国の強制収容所の実態を暴く活動をしているNGOの代表、サルクジャン・ビラシ氏が、カザフ当局に「国家反逆罪」で逮捕された。ワシントン・ポスト紙の社説は、中国のヨーロッパへの陸上輸送の60%がカザフスタンを通ることから生じている利害関係から、逮捕の背後に中国の関与があった疑念を強く打ち出している。

 アメリカも、政治的な駆け引きのなかで、新疆ウイグル自治区の人権問題には消極的だ。ポンペオ国務長官が先日、中国では1930年代以降重大な人権問題は起きていないと発言して物議を醸した。一方、彼の部下である国務省人権担当大使のマイケル・コザック氏は、先日の人権に関する年次報告書の発表の際に、新疆の強制収容所について、「まさに驚くほどひどい」と強い言葉で非難。トランプ政権のスタンスも崩れ始めてはいるが、まだ具体的な行動には出ていない。

 また、英国など西欧諸国は、収容者の即時開放などを求める強い非難の姿勢を示してはいる。しかし、国際社会の経済的・政治的な利害によって、ウイグル問題が隅においやられてしまいがちな現状は続いている。「収容所は中国の恥であり、それは世界にとっても同じだ」(ガーディアン)などと欧米メディアは訴えるが、日本の政府やメディアがそれに反応することはあるのだろうか。

Text by 内村 浩介