「アメリカに戻れないかもしれない」不法移民初のローズ奨学生

AP Photo / Charles Krupa

 最近ハーバード大学を卒業したジン・パク氏は、幼少期に親に連れられて不法入国した「ドリーマー」として初めて、権威あるローズ奨学金を獲得した。しかし、奨学金獲得の喜びは、今や予測のつかない未来への不安へと変わってしまった。

 パク氏はニューヨーク市在住の22歳だ。仮に今年の秋にイギリスのオックスフォード大学大学院に進学した場合、その後アメリカに戻ることが許可されない恐れがある。

 トランプ政権は2017年、オバマ政権時代のプログラムである「若年移民に対する国外強制退去の延期措置(DACA)」の段階的廃止に着手し、それまでDACA認定者らに認められていた海外渡航の権利を取り消した。

 これに対してパク氏とその支持者たちは、現在も複数の連邦裁判所がDACAの有効性を認めていることを鑑み、オバマ政権時代に学術研究などの特別な条件に限ってDACA認定者が認められてきた海外渡航の選択肢は、今後も与えられるべきだと訴えている。

「いったんアメリカを離れると二度とは戻れない。それは非常にリアルな、本物のリスクです。そのことが目下、最大の不安です」と、家族と7歳の時に韓国からアメリカに渡って来たパク氏は話す。

「実際に再入国が許可されなかった時どうすればいいのか、今はまだ見当もつきません」

 DACAを統括するアメリカ市民権・移民局に対し、この件についての見解を複数回にわたってメールで求めたものの、返信は得られなかった。

 DACAのステータスを持つ人々は、議会で可決されずに延々と持ち越されている「ドリーム法」と呼ばれる移民関連法案になぞらえて、「ドリーマーズ」と呼ばれる。彼らは両親などとともにアメリカに不法入国したものの、その年齢の低さを理由に国外退去を免れている。

 パク氏の両親は、息子の奨学金獲得のニュースを心から喜んだ。その両親に対し、アメリカへの再入国ができなくなるリスクについて話を切りだすのは簡単ではなかったという。

「私はその話を避けてきました」と、ハーバード大学を卒業した後日、パク氏は語っている。

「両親にとって、私の奨学金獲得は特に意味深いことでした。それは、これまで息子のために尽くしてきたことがすべて正しかったという証明のようなものでしたから」

 現在、約70万人がDACAのステータスを持っている。DACA制度は2012年に開始され、2年ごとにステータスの更新が可能だ。DACA認定を得られるのは、2007年以前にアメリカに不法入国した移民のうち、到着時に16歳未満だった人々に限られている。

 2017年、トランプ政権はDACA制度を段階的に廃止するよう命じた。ところが昨年、カリフォルニア、ニューヨーク、ワシントンDCの連邦裁判所判事らがこの施策に反対し、事実上DACAプログラムを継続させる裁定を下した。これを受けて政権側は、現在、最高裁判所に対して再審を求めている。

 一方、歴代のローズ奨学金受給者や奨学金の主催団体「ローズトラスト」の支援者たちが、パク氏に対して無償の相談サポートを申し出ている。しかし、イギリスに本拠を置くローズトラストのアメリカ主任、エリオット・ガーソン氏は、「そこはやはりアメリカ国内の法律問題であり、ローズトラストが単独で解決できるものではありません。私たちは、アメリカ連邦政府の対応に期待しています」とコメントしている。

「政府は引き続き現行法を維持し、パク氏が問題なく奨学金を受給できるようにすべきです」そう主張するのは、パク氏のローズ奨学金への申請をサポートしてきた移民支援団体「ディファイン・アメリカン」のスポークスマンを務めるクリスチャン・ラモス氏だ。

 パク氏は奨学金の辞退も考えたが、最終的にその考えを捨てた。同氏は今後も入国管理に関する議論の場で声を上げ続けたいと考えており、ここでリスクを冒してでもオックスフォードに進学する価値があると確信している。

「アメリカ人とは誰のことを指すのか。他者に対する価値判断に関わる大きな問題について、ぜひとも時間をかけてじっくり考えてみたいと思います」と、パク氏は述べている。

 パク氏は、高校在学当時からDACA認定者の立場を代弁する活動を熱心に行ってきた。そして2015年には、永住資格を持たない生徒たちの大学受験申請手続きをサポートする非営利団体「ハイアー・ドリームズ」を設立した。

 パク氏は昨年、ハーバード大学の後援を受けてローズ奨学金に応募した。これはもともと、この奨学金を含め、権威ある奨学金への応募資格がDACA認定者には与えられていない現状を訴える幅広い取り組みの一環としての応募だった。イギリスの実業家であり、政治家でもあったセシル・ローズ氏によって1902年に創設されたローズ奨学金。その内容は、オックスフォード大学大学院で2年間以上の研究を行うのに必要な費用を全額給付するというものだ。

 最初の年のパク氏の申請は、それ以前の多くの申請者と同様に受理されなかった。しかしながら、パク氏が発したメッセージは確かにローズトラスト側に届いた。ローズトラストは方針を転換し、今年から新たなルールが適用されることとなった。そこでパク氏は再度奨学金の申請を行い、その申請が今度こそ受理されたのである。

 ローズトラストのガーソン氏は、制度変更について、応募資格を拡大する同団体の取り組みを反映したものだと述べた。その言葉の通り、永住資格を持つ移民たちや、プエルトリコをはじめとするアメリカ自治領の居住者らにも、近年になってローズ奨学金応募の門戸が開かれた。

 パク氏はオックスフォードで、自身の未来に切実に関わる移民学と政治理論を学びたいと希望している。

 これまでの専攻である分子・細胞生物学からは、医学部への道も開かれている。しかしパク氏は、自治体の職員として働くことを未来の選択肢に入れているという。その現場では、どのような大統領のもとであっても、移民政策に一石を投じることができると確信しているからだ。

 そしてまた、今後何が起ころうとも、自分のホームがどこかというパク氏の思いは決して揺らぐことはない。

「ニューヨークのクイーンズこそが、私のホームです」とパク氏は言う。

「この先に何が起ころうとも、私は決してその事実を忘れることはありません。たとえ、政権の方針を変えさせるために、今後の私の人生のすべてを費やすことになろうとも。たとえ、次の大統領がどんな人物であるとしても、です」

By PHILIP MARCELO, Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP