「日本の孤独死を教訓に」海外メディアが取り上げる現代日本の陰

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 誰にも知られることなく自宅で亡くなり、死後数週間以上経って発見されるお年寄りが都市部を中心に増えている。世界でも類を見ない超高齢化社会に向かう日本で、一緒に住む家族や会話をする友達さえもおらず、ひっそりとこの世を去る老人の「孤独死」が、衰えていくかつての成長社会の未来として、海外でも教訓的に受け止められている。

◆ひとりぼっちで四半世紀。日本の団地に潜む孤独
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、ヨハネスブルグ支局長で、西アフリカのエボラ出血熱の報道でピューリッツァー賞を受賞したノリミツ・オオニシ記者の「A Generation in Japan Faces a Lonely Death(孤独死に直面する日本のある世代)」と題した記事を掲載している。千葉県松戸市にある常盤平団地に住む91歳の女性の日常を通じて見る、高齢化社会日本の陰を描いた長編記事となっている。

 1960年代から、日本政府は東京近郊に、日本の戦後経済の再建を託した何千もの若い「サラリーマン」のための巨大な団地を立て始めた。その一つである常盤平団地は、2駅にまたがる約4800戸の巨大団地である。高い競争率を勝ち抜き、女性とその夫はここに新居を構えた。新しい西洋的ライフスタイルを享受する核家族が集まる団地で、女性は幸せな人生を送るが、夫と娘が25年前に相次いで他界した。仲の良かった友人たちも次々と亡くなり、四半世紀を一人で暮らすこの女性には、知り合いはほとんどいない。

 オオニシ記者は、今や団地の住民のほぼ半分が65歳以上だと述べており、アパートで孤独死した遺体の発見が相次いでいると報じている。このような状況を案じた91歳の女性は、向かいのアパートの年下の住人にあるお願いごとをしている。女性は就寝前に窓の障子を閉め、起床後障子を開ける。「もしも朝になっても(障子が)閉まったままなら、それは自分が死んだという意味だ」として、その際はすぐに行政に連絡をしてもらう約束を取り付けている。毎朝窓をチェックしてもらうお礼として、女性は毎夏、この隣人に梨を贈り続けているという。

◆持続不可能。家族が支える日本式システム
 NYTの記事によれば、亡くなった人々の死は、光熱費の支払いが止まったり、部屋から異臭がしたりすることで、やっと気づかれることが多いという。公式な数字はないが、専門家は、孤独死の後、数日から数週間後に見つかる人は、年間3万人と見積もっている。しかし、AFPが取材した孤独死の遺体処理や清掃をする業者は、その2~3倍と見ている。

 AFPは、孤独死は高齢化する日本で広がるトレンドで、日本独特の文化、社会、人口動態的要素が問題を形作っているとしている。社会保障政策の専門家、藤森克彦氏は、日本では家族が高齢者を支えるのが普通であったが、未婚者の増加や家族規模の縮小で、そのシステムに変化が出てきていると指摘する。単身世帯は人口の14.5%で、この30年で倍増し、50代男性と80代以上の女性の増加が目立つ。不安定な職についていることから結婚できないという男性や、働き自立する女性の増加で、婚姻率も低下しているという。

 家族がいない高齢者は、他人に迷惑をかけたくないという日本的な考えから近所の人に助けを求めず、結果として他人との交流の欠如につながると藤森氏は述べている。また、家族が離れて暮らしている、または経済的に高齢の家族を援助できないというケースも増加しており、もはや家族に期待するのではなく、今のニーズに応える枠組みを社会が作らねばならないと主張している。

◆衰えていく日本。海外でも教訓に
 コリア・タイムズは、孤独死が2011年に日本のテレビニュースで使われ始めた言葉だと紹介し、韓国でも、有名ベテラン女優が自宅で死亡し2週間後に発見されたことから、社会問題として関心を集めていると報じている。昨年韓国で孤独死した人は1232人とこの5年で約78%も増加している。高齢化が進むなか、政府がポジティブな政策を打ち出さない限りその数は増えるだろうとし、日本を教訓にすべきとしている。

 NYTのコメント欄には、記事を非常に興味深く読んだという感想とともに、高齢者の孤独はアメリカ社会にも共通する問題だという意見が寄せられている。施設で家族に看取られることなく、息を引き取る老人も少なくないようだ。もっともアメリカには高齢者を援助するインフラと、ボランティアやソーシャルサービスによる支援があるとも指摘されており、この部分が日本との大きな違いだろう。その他にも、日本の高齢化の影響はさらに深刻になるだろうとし、移民に不満を述べるアメリカ人は、人口の減少する日本や欧州の現状を見るべきだという意見もあった。

Text by 山川 真智子