ベネチアを水没から救うか、期待の「モーゼ計画」とは 温暖化で増える高潮

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「水の都」として知られるイタリアの世界遺産ベネチア。運河とそこを行きかうゴンドラ、そしてレンガの建物とが織りなす景観の美しさでも名高い。また、類を見ない建築のユニークさもベネチアを有名にしている理由だ。ところが、その素晴らしい海上都市が地球温暖化によって危機に晒されているというのである。

◆世界遺産ベネチアはこうして作られた
 ベネチアの起源は5世紀にさかのぼる。その頃イタリアにゲルマン人が侵入したため、難を逃れたイタリア人たちが行きついたところがベネチアだった。ベネチアにたどり着いたイタリア人たちは海上わずか1mしか顔を出さない陸地ラグーンを開拓しそこに建物を築いた。

 ラグーンは砂が堆積したものだから地盤が弱い。しかもイタリア人の家は石造りだ。そのため森林から木を切り出し杭にし、地面に何本も打ち込み基礎を作った。打ち込んだ杭の数は計り知れないほど多い。だから「ベネチアをさかさまにすると大きな森ができる」とさえ言われている。

 ベネチアは長い間、西洋と東洋を結ぶ貿易の中心として栄え、近年ではイタリアの主要観光スポットの一つとして人気を博してきた。ところが、ベネチアはひどい水害でも知られているのである。

◆高潮に悩まされる「水の都」
 PBSニュースアワーはベネチアの高潮の被害について伝えている。それによると、1966年には海面が1.8mまで上がり史上最悪の高潮に見舞われ大きな被害がでたそうである。また高潮がない時でも地球温暖化のために海面が上がり、ベネチアはこのままでは海面下に沈んでしまうのではないかとも言われている。

 実際、PBSのビデオでも、建物が建てられた頃は、船着き場から玄関に続く3段くらいの階段の一番下が海面すれすれだったのに、今では玄関の敷居に海面が近づいていることが確認できる。しかも高潮の回数は年々増え続けているのである。港湾空間高度化環境研究センターの報告によると、110㎝以上の高潮は1923~1932年の10年間では1回だけだったのに対し、1993~2003年では53回にもなっている。また、浸食による被害も大きく、土地の面積は1810年の3割しか残っていないという。

◆ベネチアの高潮対策「モーゼ計画」
 このような環境問題に対しイタリア政府が主導し立ち上げたのが「モーゼ計画」だ。モーゼとは旧約聖書の預言者の名前であるが、こちらの「モーゼ」はイタリア語の「Modulo Sperimentale Elettromeccanico」の頭文字を取ったもので「電気機械実験モジュール」を意味する。モーゼ計画の内容は、ベネチアには大洋につながる水路が3つあるが、この3ヶ所にフラップ式の可動型ゲートを設置し押し寄せる海水を止めようというものだ。

 各ゲートの幅は20mで、各水路に18から20機設置することになる。ゲートは通常海底のケーソン内に格納され、高潮などの被害が出そうなときに起立して海水の流れを止める。ゲートと並んで水路の近くに作られているのが防波堤と閘門である。閘門はフラップ式ゲートが閉鎖した場合でも大きな船が行き来できるようにする役目を果たす。

◆「モーゼ計画」による副次問題そして今後の課題
 ただ、このゲートを使うと潮の流れが変わり、ラグーン周辺の浸食パターンが変化し土砂の堆積状況にも影響が出てると言われている。そして最終的にはベネチアの陸地部が変化する可能性もあり、周辺に生息する動植物への影響も懸念されている。特に高潮の回数がさらに増加し、ゲートを使う回数が増えれば、周辺への影響も大きくなるわけである。

 モーゼ計画は2003年に開始し8年で完成する予定だったが、大幅に遅れ今も進行中だ。実際の完成は2019年もしくは2020年になる予定だという。『プラグイン・マガジン』によると、途中で汚職の問題も発生し、ベネト州知事やベネチア市長が逮捕される事件も起きた。様々な困難にぶつかりながらも完成まであと一息となったモーゼ計画。エンジニアリングの知恵を活かし高潮の心配がなくなるという朗報はあるが、今後、ベネチアの大部分が冠水する可能性はまだ残っている。恒久対策に向けてさらなる研究が期待される。

Text by Setsuko Truong

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