世界的現象ゆえの宿命? こんまり「片づけ魔法」に海外でバッシングも

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 今、欧米でいちばん注目を浴びている日本人といえば、間違いなくこの人、片付けコンサルタントの近藤麻理恵氏だろう。2015年には タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた(アーティスト部門)。ほかに日本人は村上春樹氏のみ。ドイツのメルケル首相などの各国首脳や女優のエマ・ワトソンなど、そうそうたる面々が並ぶ。

 また今月、氏の著書の英訳第2弾『Spark Joy: An Illustrated Master Class on the Art of Organizing and Tidying Up』(以下Spark Joy)が出版されたことを受け、各紙がこぞって近藤氏の記事を掲載。1月最終週の時点で、第1弾の『The Life-Changing Magic of Tidying Up』と『Spark Joy』は、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストの1位と2位を独占している(アドバイス/ハウ・トゥ/雑学部門)。

◆世界中がその「魔法」のとりこに
 近藤氏のメソッド、いわゆる「こんまり流ときめき整理収納法」(本人のホームページより)といえば、衣類の正しいたたみ方、「ときめき」を感じるかどうかによる取捨選択方などが知られているだろう。各著書はのべ500万部を売り上げ、モンゴル語を含めた40ヶ国語の版権が売れている。FOXとNBCは氏の著書に基づいたコメディドラマを製作中(ニューヨーク・タイムズ)。とくに、平均的な家庭に約30万の「物」があり、一人平均で一生の153日にあたる時間を探し物に費やすといわれているアメリカでの人気が凄い(エコノミスト)。

 1月20日の夜、マンハッタンのバーンズ・アンド・ノーブル書店で行われた『Spark Joy』のサイン会には多くのファンが集まったが、マンハッタンの大手書店でサイン会を行うのはアメリカ人著者でもそうそう可能なことではない。訪れたファンたちはこんまり・メソッドの忠実な実行者であるばかりでなく、清楚で可憐な著者自身にも魅了されているようだ。

 アメリカ各紙はこのコンドウ・フィーバーを概ね好意的に受け止めている。ニューヨーク・タイムズはセクション違いで連日報道し、ワシントン・ポストは近藤氏の有名な「衣類のたたみ方」をビデオで紹介するとともに、氏を「日本のセレブリティ」であり、「『kondo』は『氏のメソッドで片付ける』ことを表す動詞となった」と述べる。

◆拒食症ならぬ「拒物症」?
 大ヒットすればバッシングが起こるのも自然な成り行きで、ブログなどで「グウタラ」を肯定する個人も出はじめている。エコノミスト誌は「ときめきというより強制」「拒物症」などの声を紹介。もっとも顕著な例として、Sarah Knightという著者による『The Life-Changing Magic of Not Giving A F**k』なるアンチ/パロディ本も出た(not giving a f**k は「気にしない」の意のスラング)。

 また、トロント・スター誌に記事を寄せたコラムニストは、ゴミ袋の数を競うような整理法は、「使い捨て文化の最悪の面を助長する」と批判。こんまり・メソッドは現実的ではないと指摘し、いらないものは捨てるのではなく、地域の施設や掲示板を活用し、購入する代わりに交換や寄付をするという文化を育てることがより重要とする。また、ときめきを基準にする選別方にも懐疑的だ。どんな取るに足らないものにも人生の思い出が詰まっているとし、ミニマリズムを提唱する近藤氏のシンプルなライフスタイルを「アートギャラリーか、待合室か、霊廟にでも暮らしているみたい」と辛辣に切り捨て、自分はリアルな暮らしをしていると主張する。 

◆日本的思想の理解が必要
 とはいえ、トロント・スターの反論には、筆者のやや個人的すぎる見解もある。コメント欄には近藤氏を擁護する声も多かった。筆者は「自分も非常に小さなアパートに暮らしている」とは言うが、日本のワンルーム・マンションとカナダのバチェラー・ストゥディオとは比べ物にならない。近藤氏はまた、物に詰まった思い出を否定しているわけではないのだろうが、おなじく日本で支持された断捨離的な考え方、あるいは「物の魂」などのスピリチュアル系の概念も西洋には伝わりにくいのだろう。

 昨今はオリンピックをふまえてか、「日本を正しく伝える」ことに尽力する日本人も多く、そのための書物なども多々ある。こんまり・メソッドを正しく語るのも、相互理解に役立つかもしれない。

Text by モーゲンスタン陽子