買えない、借りられない…深刻化する欧州の住宅危機

ポルトガル政府の住宅政策の改善を要求するデモ(リスボン、9月30日)|Lua Eva Blue / Shutterstock.com

 ヨーロッパ各地で住宅価格上昇と家賃高騰の影響で家を借りられない住民が多数出ている。自国に住むことをあきらめて隣国へ引っ越す者、ホームレス状態になる者もいる。経済的に豊かな国といわれたルクセンブルク、イギリス、フランス、ポルトガルなどヨーロッパを襲う住宅危機は拡大している。

◆家主と賃借人衝突 立ち退き裁判も増加
 ここ数年、住宅危機はヨーロッパ全土でますます蔓延(まんえん)し、さまざまな経済状態の国に影響を及ぼしている。ポルトガル、トルコ、そして裕福なルクセンブルクでさえ、国民に手頃な価格で利用しやすい住宅を提供するという共通の課題に取り組んでいる。

 ポルトガルでは、若者の住宅所有率が2世代にわたって50%も急落している。1977年から1986年までに生まれた人の55%が25歳までに家を所有していたのに対し、1997年以降生まれの場合は4分の1強しか所有していない。この下落は過去10年間で住宅価格が8.7%急騰した不動産危機に起因している。ポルトガルの住宅所有率は70%と比較的高いが、それは主に高齢者世代が牽引(けんいん)しているからで、若年層は住宅購入が厳しい状況にある。(ユーロニュース、10/7)

 トルコではこの1年、家賃急騰の影響で、家主と賃借人の間で衝突が後を絶たず、現地報道によると、計11人が死亡、46人が負傷した。過去1年間の家賃は平均121%、アンカラやイスタンブールなどの大都市では188%も高騰している。政府は一般家庭の家賃上昇率を25%に制限した。その結果、家主が賃借人を退去させ、値上げした家賃で新たな賃借人に貸し出す状況を生んだ。トルコのメディアによると、今年上半期に開かれた立ち退き裁判は約4万7000件、違法な家賃値上げに関する裁判は10万件で、2022年の同時期の2倍以上となった。(同)

 欧州連合(EU)で最も裕福な国といわれるルクセンブルグでも、物件購入費や賃料が高騰しており、同国に居住できない市民が出ている。首都では、新築のアパートの販売価格は1平方メートルあたり1万3000ユーロ、古い物件は1万700ユーロで、住宅の平均価格は150万ユーロだ。家賃は2022年6月から2023年6月までの間に6.7%上昇し、この間のインフレ率3.4%を大幅に上回った。(同)

 政府の政策の指針となるデータをまとめている「ハウジング・オブザーバトリー」の研究者アントワーヌ・パクー氏は、「家賃や不動産価格が安いという理由だけで、国境を越えてドイツやベルギー、フランスに移り住むルクセンブルク人が増えている」と語る(同)。

 パリ、ベルリン、リスボンでも家賃は空前の高水準に達している。また、住宅ローンの金利も圏内全域で上昇し、変動金利の住宅ローンを組んでいる住宅所有者の支払いコストを押し上げ、多くの住宅購入希望者を締め出している。

 パリ都市圏では、2023年第2四半期に不動産販売が23%減少した(キャピタル誌、8/11)。高金利のために購入できなくなった住宅購入希望者の多くが市場から締め出され、賃貸市場にさらなる圧力をかけている。

Text by 中沢弘子