中国、露店を奨励 コロナ不況対策、排除方針から一転

Ng Han Guan / AP Photo

◆「文明都市」に相応しからず
 過去何年か、中国の各都市当局は「高層ビルや広場(など)によって都市景観の強化に努めてきたため、貧困層や農村部の出稼ぎ労働者らが生計を立てる手段である露店を、目障りなものとみなしてきた」(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙 6/5)。

中国では2005年から中央文明委員会が、3年ごとに「文明都市」の選定を行っている。露店の存在は、「文明都市」の基準を満たすマイナス要因とみなされたため、地方当局は露店商を見つけると、「移転させたり、立ち退かせたり、罰金を課するのが常」(クオーツ)であり、その衝突が暴力的な事件に発展することもあった。

◆にわかに脚光を浴びる露天商
 ところが、ここにきて、その露天商がにわかに花道に押し上げられた感がある。山東省烟台を視察した李克強首相は6月1日、露天商を前にして「露店や小さな店の経済は、大規模でハイエンドな産業同様、国の重要な雇用源であり、国にとって不可欠な活力である」(テンセントニュース 6/4)と述べた。李首相はこの4日前にも、「露店を3万6千許可することで10万人の雇用を創出した四川省成都を称賛」(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト)している。

政府の支持姿勢を受け、中国の各都市もこぞって露天商の誘致を始めた。たとえば、「江西省瑞昌の地方当局は露店の指定場所を設置し業者に事業開始を呼びかけ(中略)河北省省都、石家荘は、ソーシャルメディアのアカウントを通し、露天商の経済を促進する方法を研究していると声明を出した」(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト)。そのほかにも、「河南省の徐昌、浙江省の杭州、江蘇省の南京なども、露店を許可する通りを開放」(テンセントニュース)するなど、「少なくとも27の都市が、最近になって露店商売を擁護すると発表した」(クオーツ)。

◆中国ならではの策?
 政府の「露天商擁護」政策の効果はすでに数値になって表れ始めている。「アリペイ微博は6月2日、現在全国には露店を含むマイクロビジネスの店が1200万あり、これらの小さな店の5月の売上高は、2019年の同時期を上回り、V字回復を果たしたと発表した」(テンセントニュース)。また、移動式露店として使用できるバンの売れ行きが伸び、「ウーリン・モーターズの株価は三倍になった」(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト)。

サウス・チャイナ・モーニング・ポストは、「露店設置許可の長期的な経済的影響は不明」だと慎重な見方を示しているが、一時的にせよ露天商許可が失業対策になり得るのは、中国ならではの話に思える。異なる業種にもすんなり転向できる柔軟性と、たくましい国民性なくては、露天商が舞台に押し上げられることもなかったであろう。

サウス・チャイナ・モーニング・ポストによれば、中国の大物の多くは、露天商の経験があり、レノボの創始者、柳傳志や娃哈哈グループ創始者、宗慶後も例外ではないという。2020年の露店起業組から、未来の長者番付の常連が生まれる確率は案外高いかもしれない。

Text by 冠ゆき