変わる中国のミドルクラス、政府の思惑通りにならず……長引く米中貿易戦争

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◆消費者心理に異変 節約が今年のキーワード?
 WSJによると、ミドルクラスによってけん引されるはずだった消費が鈍化しているという。4月の小売売上高は前年同月比で7.2%増加したが、伸び率は約16年ぶりの低水準となった。2018年の新車販売台数も28年ぶりの減少となり、4月の工業生産、1月から4月の固定資産投資も伸び率は鈍化している。

 北京大学のヤオ・ヤン氏は、問題は消費者の信頼感だとする。政府が多額の負債を持つ企業に対処し、投資家がリスク回避に走るなか、すでに経済は冷え込んでいるという心配があったが、それに加えて米中貿易摩擦が消費者の心理に影響を及ぼしたと見ている(WSJ)。

 中国では、教育、医療、老人介護、住宅などが、ミドルクラスの出費の多くを占める。また、経済が発展することで日々の生活コストも都市部では増えており、若いミドルクラス世帯は、家や車を買う際には親の援助を受けることもしばしばだ。また、まとめ買いやセール品の購入に努め、外食や海外旅行を控えてコストを抑え、教育費に回している家庭が多い(China Briefing)。

 投資情報サイト『Citywire Selector』は、中国の消費者は高価な外国製品を買いまくるというイメージがあったが、それは過去のものだと述べる。China Market Research Groupのショーン・レイン氏は、ミドルクラスのストーリーは変わりつつあり、彼らはより安いものを求め、5ドルのスターバックスコーヒーより2ドルのラッキン・コーヒー(中国のコーヒーチェーン)を、高価なコーチのバッグより国産のノーブランドのカバンを選ぶと述べる。消費者心理の悪化した2019年の中国ミドルクラスのテーマは節約志向で、同時に価値も重視するだろうとしている。また、かつての舶来信仰も薄らぎ、国産を買うのもトレンドで、商品のクオリティがそう変わらなくなったいま、ポイントは価格だとしている。

◆成長のポテンシャルに政府も期待 貿易摩擦を緩和できるか?
 China Briefingは、まだまだ成長の続く中国では、今日の都市部の貧困層は明日の富裕層だとし、10億を超える人口の成長のポテンシャルは否定できないと述べる。中国がその経済を付加価値の高い製造業、テクノロジー、サービス部門にシフトしていけば、ミドルクラスの収入は増え、その数は拡大すると楽観的だ。

 長引く米中貿易摩擦に関し、中国政府は4億人のミドルクラスの購買力で衝撃を緩和するという戦略を立てているが、最近発表された経済統計によってその戦略への信頼は揺らいでいる。中国政府の次の一手が注目される。

Text by 山川 真智子