イギリスのTPP参加の可能性は? 安倍首相のラブコール、EU離脱派の追い風に

出典:首相官邸ホームページ

◆TPP参加には英連邦復活の意味も
 テレグラフ紙は、TPP参加の意味を「世界経済のおよそ13%を占める経済ブロックにアクセスできるようになること」だと解説。ただし、TPP参加国(日本、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム)との貿易は、イギリスの輸出の48%を占めるEUよりもはるかに少ないと指摘している。また、唯一太平洋に接していないイギリスにとっては、地理的に近い国と良好な貿易関係を結ぶという常識を破ることになる。ただし、同紙は、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、カナダと、イギリス連邦諸国(かつての大英帝国領)が多く含まれているのは、歴史的な結びつきという意味では好材料だとしている。

 同紙は、TPP参加の賛成意見として、ベトナム、マレーシアといった急成長市場への輸出を有利に行えることと、参加国からの輸入品が安くなることを挙げている。また、地理的に中国に近い国々と経済的な同盟関係を強化することは、中国との貿易に好影響を与えるという見方もある。イギリスが参加すれば、TPP参加国では日本に次ぐ経済大国ということになるが、「それにより、EUにいるよりも強い交渉力を得られるかもしれない」と同紙は分析している。

 一方、反対意見としては、参加国からの安い輸入品が国産品の脅威になることが挙げられる。就任後すぐにTPP離脱を表明したトランプ米大統領が主張したように、過度なグローバリゼーションは国内経済にかえって不利益を与えるという考え方だ。また、無関税などを定めるEUの単一市場と関税同盟を完全に抜けるのがTPP参加の条件で、そのハードルは高いと言える。EUに軸足を残した緩やかな離脱という選択肢を捨てて、完全離脱する覚悟が必要となる。

◆日本企業の英国脱出を食い止められるか
 現在、1000を超える日本企業がイギリスで活動し、14万人以上の雇用を抱えている。EU離脱を巡っては、イギリス経済に貢献しているそうした日本企業の動向も注目されている。安倍首相は、FTのインタビューで、ブレグジットの失敗は英国に工場を置く自動車メーカーの生産に打撃を与えるという懸念も示した。イングランド北東部サンダーランドの工場で約7000人を雇用する日産は、EU離脱の失敗は、同工場の操業に「深刻な影響を与える」としている(ガーディアン紙)。

 また、イングランド中部ダービーシャーのバーナストン工場でEU向けの約9割に当たる年間約15万台を生産するトヨタは、ブレグジットがうまくいかなければ、同工場の操業を一時停止する可能性があるとしている。トヨタモーターヨーロッパ社長兼CEOのヨハン・ファン・ゼイル氏は、ガーディアン紙に「英国市場そのものの規模は、工場の規模に見合っていない」と、同工場での生産はあくまで欧州市場全体に向けたものであると強調。「もし、欧州市場に向けて販売できなくなれば、工場の将来に影響が出る」と警告した。

 パナソニックは、既に欧州本社をロンドンからオランダのアムステルダムに移す方針を決めている。そうした日本企業の英国脱出が報じられるなか、特に深刻な影響を懸念するのは銀行などの金融機関だ。「ロンドンに拠点を置く日本の大手銀行は、既にロンドンでのプレゼンスを縮小させると発表している。彼らは、欧州全体の金融市場での自由な活動を許す“EUパスポート”を失うことを懸念している」(ガーディアン紙)。イギリスのTPP参加により、こうした懸念を打ち消すことができるのか、注目される。

Text by 内村 浩介