経済対話、日米の溝埋まらず 二国間にこだわるトランプ政権、現地では危機感も

 16日にワシントンで行われた日米経済対話で、両政府は一部協議内容について合意に至ったと発表した。特定の農産物の貿易制限撤廃などが対象だ。しかし、2国間の自由貿易協定(FTA)を締結したいアメリカに対し、日本側はアメリカのTPP復帰を促したい思惑があり、方向性の違いが鮮明となった。米メディアにもFTAの推進は難題となるとの見方が広がっている。

◆交渉を急ぐアメリカ FTAによる貿易赤字解消に期待
 今回の対話の中で、ペンス米副大統領はFTAの締結に意欲を見せた。アメリカ側がFTAにこだわる背景には、貿易赤字への強い問題意識がある。ブルームバーグは副大統領の発言を引用し、貿易の公平性を保つことが今回の柱であったと伝える。日本は中国に次ぐ貿易赤字相手国であり、アメリカ政府は大きな課題と捉えている。

 さらに危機感を煽ったのが、過日の牛肉セーフガードの発動だ。米政治メディア『ポリティコ』によると、アメリカの食肉輸出市場のシェアは減少の見通しとなっている。セーフガードにより、38.5%だった関税が50%まで上昇したことが影響した。日本はアメリカ産牛肉の最大の市場で、同メディアは輸出額の減少を憂慮する。

 ロイター(10月17日)は今回の経済対話について、「トランプ氏の『アメリカ第一主義』の下、日米間の親密な関係を保てるかの試金石になりつつある」と表現する。しかしFTAを推進したいアメリカに対し、日本側は消極的で、枠組みづくりへ思惑は外れた形となった。

◆農産物、自動車、エネルギー分野で一定の合意も
 一方で、経済対話は一定の成果も生んだ。日本産の柿と、アイダホ産のジャガイモについて、輸入制限を解除する方向になった。自動車貿易の分野でも、アメリカからの一部輸入手続きを簡素化することで日本側が合意した。

 農産物に加え、『ポリティコ』ではエネルギーとインフラ分野での協力に注目している。日本側が資源購入量を増やすほか、インフラ関連のプロジェクトをアメリカで支援する内容だ。同メディアでは両国に利益があると見ている。アメリカ政府にとっても成果と言えるが、本命がFTAへの交渉であったことを考えれば、必ずしも満足のいく対話ではなかったかもしれない。

◆TPPを推進したい日本 FTAへの視線は冷ややか
 日本側がFTAでなくTPPを重視するのは、中国の台頭を意識してのことだ。多国間協定で中国を囲い込めば、本来はアメリカ側の利益にも繋がる。これに関し『ポリティコ』(10月15日)は、日本の政府高官らの心証として、「トランプ大統領が多国間協定の重要性を理解できないことに落胆している」との見解を伝えている。合理的なTPPの枠組みを外れ、あくまで「アメリカ第一主義」を貫くトランプ政権の手法に辟易した様子だ。

 同メディアによると、アメリカ国内でも共和党を中心にTPP離脱への不満が募っているという。日本はアメリカの複数のライバル国と貿易交渉を進めており、7月にEUとEPA協定で大枠合意した。日本と他国間で交渉がまとまっていく流れを前に、アメリカの焦りは広がる。

 ブルームバーグでは、アメリカ国内の多くの企業がTPP脱退に反対していると報じている。オーストラリアなどの競合に引けを取ることを警戒しているとのことだ。牛肉セーフガードの一件はまさに好例と言えるだろう。

 アメリカは当面FTA交渉を目指すと見られるが、その立場は盤石ではない。TPP復帰の余地もまだ残されており、今後の動きに産業界の注目が集まる。

Text by 青葉やまと