ロンドンと東京が鉄道でつながる? ロシア、サハリンと北海道を結ぶ橋の建設を提案

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 シベリアの太平洋岸とサハリンと北海道を鉄道橋で結ぶ計画が、ロシアのプーチン大統領の肝いりで開かれた「東方経済フォーラム」で発表された。ロシア側は、日本にプロジェクトへの協力を「真剣に」求めたと報じられている。この壮大なプロジェクトが実現すれば、現在西ヨーロッパから極東のウラジオストクまでつながっている鉄道網が、日本列島まで延伸されることになる。

◆「日本は大陸国家になる」
 計画を発表したシュワロフ第一副首相は、「これが実現すれば日本は大陸国家になる」と力を込めた。ロシア本土とサハリン、サハリンと北海道を結ぶ2本の橋により、大陸と日本が陸路で結ばれるからだ。日ロ共同プロジェクトとしてロシア側から提案があった形だが、日本側も「見込みを調査する」と関心を示したと報じられている。計画は、今月2日の安倍・プーチン首脳会談の場ともなったウラジオストクで開かれていた「東方経済フォーラム」で、各国の参加者を前に発表された。

 おそらく日本側が建設を担当することになるサハリン南部と稚内を結ぶ宗谷海峡を渡る橋は、鉄道と自動車の兼用で長さ約45kmになる。英デイリー・メール紙は2本の橋により、「超効率的な日本の鉄道網」と、ロシアのシベリア鉄道、バイカル・アムール鉄道、ヨーロッパ各国の鉄道が結ばれると説明。「ロシア政府が提案した野心的なプロジェクトにより、ロンドンと東京が8400マイルの壮大な鉄道ルートで結ばれる」と表現している。

 また、同紙は、「乗客はまず、英国の首都を出発し、英仏海峡を(トンネルを通って)渡る。列車は、ドイツ、ポーランドを経てロシアに入る。雪を頂いたシベリアの山並みを見ながら、荒涼とした大地を進む旅が続くだろう」と、夢の鉄道旅行の様子を綴っている。

◆サハリンとのリンクはロシアの悲願
 本土とサハリンを陸路で結ぶことは、旧ソ連時代からのロシアの悲願だ。プーチン大統領の腹心で、現・大統領特別代表(自然保護活動、環境問題、交通運輸担当))のセルゲイ・イワノフ氏は、「我々の長年の夢だ。スターリン同志ですらこれを計画した」と語った。

 では、独裁者・スターリンも断念した計画に実現性はあるのか。プーチン大統領は今年6月、本土とサハリンを結ぶ橋のコストを「2860億ルーブル(約5380億円)」と見積もった。サハリン-北海道間の橋はそれよりも高くなるとみられる。シュワロフ第一副首相は「あくまで真剣に日本側のパートナーに橋の建設を提案している。実現可能か?可能だ。最新技術を用いれば、コストもそれほど高くはならない」と自信を示した(タイムズ紙)。現地紙シベリアン・タイムズは、「モスクワ(中央政府)の主要人物たちは日本への鉄道網のコストパフォーマンスを疑問視しているが、シュワロフは確信しているようだ」と報じている。

 シュワロフ氏の自信の背景には、プーチン大統領がとりわけシベリア再開発に力を入れている現状がある。サハリンを含め、シベリア地域は石油、石炭、天然ガス、金など貴重な天然資源の宝庫だ。ロシアは、主な輸出先のヨーロッパへの輸送ルートの再整備を進めているが、日本への輸出も新たな陸路の構築で拡大したいところだろう。プーチン大統領は、「東方経済フォーラム」で、「(シベリアで)新しい輸送網を建設中だ。関連企業が製品をより早く安く、アジア太平洋からヨーロッパに運び、戻すことが可能になりつつある。その中で、我々はサハリンに渡る橋の建設の可能性を精査している」と、熱い調子で語った(シベリアン・タイムズ)。

◆「歴史の架け橋」になるか
 プーチン大統領はさらに、「北の海洋ルートの開発と共に、バイカル・アムール鉄道とシベリア横断鉄道の近代化など他のプロジェクトを同時に行うことにより、ロシア極東地域をメジャーな世界物流ハブにすることができる」と力を込めた。ロシア側は単に日本とのリンクだけを考えているのではなく、極東地域全体の地位向上を狙っているようだ。

 各海外メディアは、日ロ間に横たわる北方領土問題やサハリンがかつて樺太と呼ばれ、日本の統治下にあったことにも触れている。北方領土問題については、長年の懸案ではあるものの、最近は日ロ間で経済協力の機運が高まっており、緊張は緩んでいるとデイリー・メールは書く。シベリアン・タイムズも、日ロ首脳会談で、北方領土での漁業、観光、ヘルスケアなどの共同プロジェクトが話し合われたことを取り上げ、サハリンでも協力体制を築ける機運はあると見ているようだ。

 デイリー・メールは「提案された橋の建設は、『歴史の架け橋』とも表現されている」と、橋が本当に建設されれば、それは同時に日ロ間の歴史問題の解決も意味すると示唆している。日本にとっては、コストや技術的な問題もさることながら、実現に向けては政治的な駆け引きも必要になってくるだろう。

Text by 内村 浩介