日銀短観:大企業は記録的業績、それでも景気回復に確信を持てない理由

 日銀は1日より、3月の全国企業短期経済観測調査(短観)を発表した。円安や原油価格下落などを背景に好業績が続いている自動車などの大企業製造業で、景気の目安となる業況判断指数(DI)の上昇が予想されていたが、結果は昨年12月の前回調査から横ばいだった。企業による消費者物価上昇率の見通しもほぼ横ばいで、その数値は日銀が目標とする2%に至っていない。さらに、多くの企業は今年度、昨年度よりも設備投資を控える計画であることが示された。

◆「日本の大企業製造業は景気回復を確信できていない」
 日銀短観は3ヶ月に1度、実施されている。DIは、景気が良いと答えた企業の割合から、悪いと答えた企業の割合を引いたものだ。日本の産業の屋台骨である大企業製造業のDIは、特に注目を集めている。

 その大企業製造業のDIは、プラス12だった。事前予想を下回った、とブルームバーグは伝える。さらに、3ヶ月後の景気見通しについては、プラス10となっている。減った分については、現在の好況がこの先も続かないと考えている企業が存在する、と見てよいだろう。日本の大企業製造業は、景気回復を確信できていない、とブルームバーグは語る。

 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、「この結果が示しているのは、企業は、円安と原油価格低下のメリットは一時的なものだと覚悟しており、また、消費者需要に活気がないと感じているということです」とフィナンシャル・タイムズ(FT)紙(1日)に語っている。またJPモルガン証券の株式調査部長のイェスパー・コール氏は、製造業企業が海外需要の確かさについて心配し、慎重になっていることは疑いがない、とブルームバーグに語っている。

◆2月の実質GDPは前月比マイナス2.1%
 ブルームバーグは短観のデータから、日本の大企業製造業は、今四半期(4~6月期)、景気が後退しつつあると見ている、と分析した。それを補強するようなデータが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のブログ「日本リアルタイム」で取り上げられている。

 時期はややさかのぼるが、2月、日本の月間GDPは、前月比でマイナス2.1%と、急激に減少したというのだ。これは、昨年4月以来で最大の下げ幅であるという。日本経済研究センターが集計し、1日発表したものだ。数値は物価変動の影響を除いた実質GDPとなっている。

 同センターの高野哲彰研究員によると、原因は個人消費が弱いことだという。また日経新聞(1日)では、中国の春節(旧正月)の影響で、輸出が6.5%減と大幅に減ったことが響いたとされている。

 記事は、1~3月期の4半期でも、前期比でマイナスになる可能性を取り上げている。

◆アベノミクスが重視する設備投資に伸び悩み
 FT紙(2日)とブルームバーグは、多くの企業が今年度、設備投資を前年度より控える計画であることに着目している。短観によると、大企業全産業で、設備投資計画は前年度比1.2%減となっている。FT紙によると、昨年度の計画では同8.2%増だった。全規模全産業では5.0%減になっているという。(ただし大企業製造業は5.0%増だが、これら記事では触れられていない。)

 安倍首相はアベノミクスで、手持ち資金の豊かな企業に、新工場や新設備へのさらなる支出と、個人消費支出を活性化するための賃金上昇を奨励しようと努めている、とFT紙は語る。ブルームバーグも、企業は現金資産を溜め込んでいるが、安倍首相にはそれら企業に、設備投資と、社員の賃金を増やしてもらう必要があると語っている。

 ブルームバーグは、賃金については、一部の企業で、利益の一部を社員に還元することを検討していると語り、今年の春闘の結果を伝えている。

 しかしながら、設備投資にかけては、そううまくはいっていないようだ。FT紙は、日本企業は、円安、原油価格下落、収益拡大にもかかわらず、今後1年間、設備投資を増大させることに依然として前向きではなく、それが安倍首相の経済政策にとってもう一つの難事となっている、と語る。

 みずほ証券金融市場調査部チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、一部の企業は円安を背景に、日本に生産拠点を戻す気があるかもしれないが、人口減少のせいで国内市場が縮小するという懸念によって、設備投資の増加はどれも制限されたものになるだろう、とFT紙に語っている。これは「構造的問題」だと同氏は指摘している。

◆物価上昇率の予想こそが重要
 FT紙(1日)とロイターは、企業の消費者物価指数(CPI)上昇率の見通しに着目した。企業の物価見通しは、消費税率引き上げなどの影響を除いた、1年後、3年後、5年後のCPIの前年比上昇率の見通しを企業に尋ねたものだ(日経新聞(2日)による)。

 全規模全産業の平均で、1年後は1.4%、3年後は1.6%とされたが、これは前回調査と同じだった。5年後では、前回調査より0.1%下がって、1.6%となった。

 ロイターは、企業の物価見通しは前回調査からほとんど変化していないが、このことは、インフレ圧力が日銀の期待ほど急速に高まっていないかもしれないしるしである、と語っている。また、今回の結果によって、日銀の大規模な金融緩和策と、政府の経済改革だけでは、日銀の2%というインフレ目標の達成に不十分なのでは、という、なかなか消えない懸念が、さらに募りそうだとしている。

 FT紙は、日銀幹部は、2年前に開始した大規模な金融緩和策の主動力として、物価見通し(インフレ予想)を非常に重視している、と語る。日銀が昨年10月に質的・量的金融緩和政策を拡大したのも、この見通しの弱さが主な理由だったとしている。

 日銀はこれらの見通しを、現今の物価上昇率よりもはるかに重要だと考えている、とFT紙は語る。予想された物価上昇率によって、賃金と販売価格の設定は左右されるはずだ。そのため、予想は「それを言ったこと自体がもとで結果的に的中する予言」として働く。ゆえに日銀は、見通しを2%のインフレ目標に沿わせておく必要がある、と同紙は説明している。

Text by NewSphere 編集部