海外批評家も絶賛、映画『PERFECT DAYS』 巨匠の描く日常の美、役所の演技力、完璧な選曲…

◆ありふれたものの魅力を表現 役所広司の演技力にも称賛
 多くのレビューが、映画の中で描かれた孤独な清掃員の生活の描き方に着目している。英ガーディアン紙は、毎日が同じである平山の生活を描くこの映画は、ともすれば非常に殺伐としたものになると指摘。しかし日常にある美しさや充実感、シンプルさを表現することで、ヴェンダース監督は抑えきれないほどに魅力的、かつ予想外に人生に肯定的な映像を作り出したと述べている。

 映画誌『リトル・ホワイト・ライズ』は、ヴェンダース監督は真の詩的精神を持つ映画監督だとし、観る者にいったん立ち止まり、周囲にある世界の細部について思いをはせるように仕向けると述べる。この作品は東京、さらには日本への敬意を持って作られた小さな驚異であり、ありふれたものに宿る美しさに真剣に取り組んだ素晴らしい例でもあるとしている。

 監督の意図を形にしたのが、役所広司の演技だとされている。ガーディアン紙は、役所はほとんどセリフに頼ることなく、非常に豊かな内面を表現できる俳優だと解説。リトル・ホワイト・ライズは、視線や顔の動き一つですべてを伝えるのが役所だとしている。

◆ノスタルジーを呼び起こす? 監督の選曲に注目
 批評家の注目は、平山の通勤途中の車の中で、カセットテープから流れる数々の楽曲にも注がれた。ヴェンダース監督は音楽・ポップカルチャーサイト『NME』のインタビューで「平山は青春時代にちょっとしがみついており、その時代の音楽が大好きだ」と説明している。

 ウェブ誌『スプラッシュ・マガジン』は、ヴァン・モリソン、ルー・リード、アニマルズの音楽は、主役の邪魔にならないよう雰囲気を盛り上げるために使われていると指摘。実際に平山が仕事場に到着すると、曲はしばしば途中で途切れると解説している。

 ガーディアン紙は、平山は60~70年代の英米のロック、そして同年代の日本のフォークを聞いていると解説。特に、映画のタイトルにもなっているルー・リードの曲や、ニーナ・シモンの『フィーリング・グッド』は、その時々の彼の心の中を覗く窓だとしている。

 ヴェンダース監督はルー・リードを「今作の力強い声」とし、ニーナ・シモンを「私の人生とほかの人々にとっての偉大なヒーローの一人」と呼んでおり(NME)、選曲には監督の好みが強く反映されている。ローリング・ストーン誌は、監督はまるでベテランの音楽オタクばりに非の打ちどころのない選曲をしていると述べており、郷愁を感じさせる楽曲も高い評価の理由になっているようだ。

『PERFECT DAYS』全国大ヒット上映中
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド
2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124 分
©2023 MASTER MIND Ltd.

Text by 山川 真智子