ウクライナの文化遺産を守る ユネスコ、現地が奔走

リビウ国立間博物館でイコノスタシスを移動させる作業員(3月4日)|Bernat Armangue / AP Photo

◆空っぽのリビウ国立博物館
 ウクライナ最大の博物館の1つであるリビウ国立博物館では、予測される攻撃に備えて、すべての文化財を地下施設に移動させた。現在、通常なら美術品が置かれているはずの台座には何もなく、美術品のショーケースなどは空っぽの状態になっている。1500の展示品のすべてが美術館から移動され、全コレクションの97%に相当するそれ以外の所蔵品は、すでに保管庫に置かれているとのことだ。

 同美術館の館長であるイホール・コーザン(Ihor Kozhan)自身、素早いスピードで移動が進んだことに驚いているとのことだ。移動された美術品には部分ごとに6ヶ月かけて組み立てられたイコノスタシス(聖画像が掛けられた教会の壁、聖障)が含まれる。イコノスタシスの解体・移動作業は6日以内に完了したとのことだ。17世紀の文化遺産である当館所蔵のイコノスタシスは、1924年からリビウで保管されてきた。1939年にナチスから隠すために一度解体され、その後、旧ソ連占領下では禁じられ、2006年に復元したイコノスタシスは、再び解体されることとなった。

 文化財は、残念ながら軍事目標となることも少なくなく、ウクライナ関係者もそれを恐れている。自国の文化財を守ることは、物理的な意味でも比喩的な意味でも、自国の文化を守ることにほかならない。戦禍において、当然、人命を救うことが最優先ではあるが、さまざまな歴史的証拠として、文化遺産を保護することは重要な意義がある。文化財とともに自国とそのアイデンティティを守るために、関係者の働きかけは今後も続く。

【関連記事】
アフリカから略奪した文化財を返還へ 欧州で進む議論と課題
古美術品の違法取引:数千年もの長きにわたって続いた惨状
遺跡の壁で射撃練習 保護されず都市に埋没してゆくペルーの遺跡群

Text by MAKI NAKATA