アフリカから略奪した文化財を返還へ 欧州で進む議論と課題

ドイツの美術館が保有するベニン・ブロンズ|Daniel Bockwoldt / dpa via AP

 近年、植民地時代に欧州が略奪したアフリカの文化財の返還をめぐる議論が盛り上がっている。ドイツの文化メディア庁(Staatsministerin für Kultur und Medien、ドイツ連邦首相府文化メディア担当)は4月29日、早ければ来年から自国の美術館が保有するベニン・ブロンズ(Benin Bronzes)をナイジェリアに返還する予定だという声明を発表した。また、フランスでもマクロン大統領主導のもと、フランスが保有するアフリカ文化財の返還に向けた動きが進みつつある。しかし、議論が盛り上がる一方で、実際の返還に至ったケースはまだ限られている。簡単には進まない、アフリカ文化財の返還をめぐる動きとは。

◆ベニン・ブロンズに関するドイツの公式見解
 4月29日、ドイツ連邦首相府文化メディア担当国務大臣のモニカ・グリュッタース(Monika Grütters)の呼びかけで、ドイツの美術館が保有するベニン・ブロンズをどう扱うかについての協議が行われた。会議には、文化庁の担当者と、ベニン・ブロンズの返還に関する対話を率いるベニン・ダイアログ・グループ(Benin Dialogue Group)に所属する各美術館の館長が参加した。ベニン・ダイアログ・グループは、2010年からナイジェリアの代表者らと協議を進めてきた団体だ。今回の会議はナイジェリア側との共通認識に達する前段階として、ドイツとしての足並みを揃えることが目的で、ナイジェリア側の参加者はいなかったようだ。

 会議の結果、「参加者には、原則としてベニン・ブロンズの大部分を返還する意思があるということが再確認された(The participants reaffirm their willingness in principle to make substantial returns of Benin Bronzes)」との発表があった。本件は、外交的にセンシティブな課題であるため、発表の文言も非常に外交的な表現になっている。発表には、3点の同意事項が添えられている。一つは、透明性に関するもの、二つ目が返還に関する協議および今後のナイジェリアとの連携に関するもの、そしてもう一つが今後のプロセスに関する事柄だ。

 透明性とは、まずはドイツの美術館が所蔵するすべてのベニン・ブロンズ作品をリスト化し、今年の6月15日までに管理団体「The Contact Point for Collections from Colonial Contexts in Germany」のウェブサイトで公開することが発表された。その後、年内に各作品の入手元などといった詳細データも追加される予定。世界各地に広がるベニン・ブロンズおよびベニンの関連作品のデータを集結させた、デジタルライブラリーを構築するというのが中長期構想だ。

 返還に関する協議と今後のナイジェリアとの連携に関しては、返還される作品の選別と具体的な所蔵先が鍵となる。現在、旧ベニン王国があったナイジェリアのベニン・シティでは、新たな美術館である「Edo Museum of West African Art (EMOWAA)」の建設構想が進んでいる。建設は開始していないようだが、世界的に活躍するガーナ系イギリス人の建築家デイヴィッド・アジャイ(David Adjaye)の事務所が手がけるデザイン構想図がすでに発表されている。EMOWAAは、ナイジェリア政府、エド州知事、ベニン王族らの支持のもと発足した、ナイジェリアの非営利団体「Legacy Restoration Trust (LRT)」と大英博物館による共同プロジェクトである。EMOWAAの建設に関しては、2019年にベニン・ダイアログ・グループも協力意思を表明している。一方、ドイツが保有するすべてのベニン・ブロンズをすべて返還するという意思表示はなく、選別のうえ、一部はドイツの美術館でも展示していきたいという意図があるようだ。

 今後のプロセスについては、現時点では具体的な発表はなく、今夏までに具体的な返還計画とタイムラインを決定するとされている。一方で、EMOWAAの第一フェーズの建物が完了する2022年のタミングで、最初の返還を実施することを目指している。

Text by MAKI NAKATA