「共産党員になりたい」ジャッキー・チェンが香港・中国で嫌悪される理由

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 ジャッキー・チェンの一連のあからさまな中国愛の誇示、共産党政権へのお世辞やおべっかは、「裏がある」と想像するに難くないのも不人気の理由だ。たとえば、愛息のジェイシー・チャンが2014年、北京の自宅で大麻所持と使用、薬物使用の場所を提供した罪で逮捕・起訴された事件。薬物事件は重罪の中国で、懲役6ヶ月と罰金2000人民元(約3万4000円)、という異例の軽い処分に誰もが疑問を抱いた。ジャッキー・チェンはその5年前、薬物撲滅キャンペーンの大使に任命されていたため、中国警察のメンツを潰す形になったが、愛息釈放後のイベントでBBCによる英語での質疑応答の際、シンガポールや中国で薬物使用の罪に適用される極刑について聞かれると、「よくわからないが」と前置きしたうえで「死刑を支持する」「薬物使用には重罪を適用すべきだ」とする部分を北京語で臆面もなく答え、うまくごまかした。

 一方で、中国政府への熱烈な支持姿勢が功を奏し、ジャッキー・チェンは中国共産党創立100周年イベントで、メインステージでの文化公演『偉大なる旅』への出演を果たしている(バラエティ誌)。ほかにも、たびたびテレビの特番やイベントで愛国ソングを披露、警察や税関といった政府の広報活動、2008年北京オリンピックの開会式での歌唱など、愛国スター街道を着々と歩んでいる。その上、愛国統一戦線組織である中国人民政治協商会議の委員として、第13期大会に参加した実績もある(中国網)。

◆侮れない中国市場
 2012年に公開されたジャッキー・チェン監督主演映画、『ライジング・ドラゴン』は中国大陸での興行収入が1億3800万ドル、香港ではそのおよそ10分の1、1120万ドルだった(アトランティック誌)。中国の映画スクリーン数は現在、7万5000以上と世界一、映画興行収入は2018年に89億ドル超(ハリウッド・レポーター誌)で、映画産業にとって中国は大事なドル箱。ジャッキー・チェンが出身地香港を見捨てたと思われてでも、中国政府礼賛姿勢をアピールせざるを得ないお財布事情も見えてくる。

「人民元に魂を売った男」、などと揶揄されつつも、中国大陸での金儲けに余念がないジャッキー・チェンは、今年67歳。世界のアクション・スターは、もはや危険なスタントに興味がなさそうだ。

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Text by 佐藤さとみ