IOC認めても不公平? トランス選手の五輪出場が物議 NZ女子代表

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◆身体的優位性を問題視 女性アスリート落胆
 ハバード選手の代表入りには、多くの批判の声が出ている。同じ87キロ級のベルギーのアンナ・ヴァンベリンゲン選手は、トランスジェンダーのコミュニティを全面的に支持しているとしながらも、社会的包含の原則は、「他者の犠牲」の上にあってはならないと述べる。高いレベルで重量上げのトレーニングを行ってきた者ならだれもが肌で感じることで、この特殊な状況は重量挙げ競技とその選手にとっては不公平だとした。メダルや五輪出場権など、人生を変えるチャンスを逃してしまうアスリートもいるのに、自分たちは無力だと述べている。(ロイター

 保守系メディア、デイリー・ワイヤーのイアン・ハワース氏は、男性として成長した人が持つ筋肉や骨格などの身体的優位性はホルモン治療後も違いはないのではないかと主張。テストステロンを抑制するホルモン剤を2年使用した後でも、トランス女性はランニングテストで12%のアドバンテージを持つという研究結果を紹介した。ハバード選手に勝利のチャンスを与えることは、女性がほかの女性と同じ土俵で競い合う権利を奪うことになってしまうとしている。

◆LGBTQ反対派の標的に? NZ首相は応援
 トランスジェンダー受け入れを支持する人々は、ホルモン治療などの転換の過程で、その優位性が大幅に減少すると主張。また選手間の肉体的違いは必ずあるもので、スポーツにおいて真の意味での同じ土俵というのは存在しないと述べている。(ロイター

 ハバード選手の五輪出場が、LGBTQの権利や自由の拡大に反対する保守的な活動家の標的になるのではないかという意見もある。トレド大学の政治学教授、ジャミ・テイラー氏は、トランスの人々の参加に関する方針は、より多くの医学的、科学的証拠が出てくればさらに見直すというIOCの方針に言及。ハバード選手がメダル獲得など好成績を残せば、トランス女性の完全禁止とまではいかなくても、より大きな制限を課すべきだという主張に利用されるだろうとしている。(AP

 ニュージーランドのアーダーン首相は、ハバード選手の五輪出場に関し、チームも選手もルールに従っただけで、ルールに従った人が参加を拒否されるのはおかしいという考えを示した(ロイター)。スポーツ相のグラント・ロバートソン氏は、「彼女は選ばれる価値があり、我々も応援する」とコメント(ガーディアン紙)。野党保守党のジュディス・コリンズ氏は、「彼女は彼女であり、ベストを尽くそうとしている」と述べ、擁護の姿勢を示している(同)。

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Text by 山川 真智子