大坂なおみの発信力と影響力 全仏大会棄権が示したもの

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◆大坂の発信に対する反応とその影響力
 大坂の棄権の決断に対して、同じテニス選手のヴィーナス・ウィリアムズ(Venus Williams)やコリ・ガウフ(Cori Gauff)は、インスタグラム投稿に直接コメントし、サポートを示した。F1のルイス・ハミルトン(Lewis Hamilton)や元陸上選手のウサイン・ボルト(Usain Bolt)も、(大坂が発言したことに対して)手を合わせた絵文字で感謝・賛同を示した。一方で、テニス選手らをはじめとする多くの選手たちは大坂個人の決断を尊重しつつも、メディア取材の拒否に関しては必ずしもサポートするということでもないようだ。ハミルトンは、アゼルバイジャン・グランプリ前の記者会見で、彼女の決断に対するバックラッシュや、大会開催側の対応に関して意見を述べた。選手とメディアの関係、とくに若い選手が経験するメディア取材のプレッシャーに関しては、よい影響は与えないだろうとの考えを述べた。

 一方で、ハミルトンは、メンタルヘルスに対してはより明確な意見を述べた。個人が抱えているメンタルヘルスの問題を打ち明けた人に罰金を課した大会側を批判した。そして、大坂は非常に勇気ある行動を取ったと賞賛し、権威に対して疑問を呈すること、つまり罰金を課すという大会側の間違った判断について、開催側に自ら考えさせるということが必要だと述べた。大坂の行動や決断は、必ずしも適切なものではなかったとする批判はあるものの、世界的に影響力のあるスター選手がメンタルヘルスの問題を公表した事実は、メンタルヘルスの重要性の認知の拡大につながるものとなりそうだ。

 大坂は記者会見などにおけるメディア対応が苦手としつつも、とくに昨年以降は、自分のボイスを発信し続け、行動を起こしてきた。2018年のUSオープンの決勝では、対戦相手セリーナ・ウィリアムズへの審判の判断に対して聴衆が表彰式の間もブーイングを続け、大坂は初のグランドスラムの勝利を喜ぶことができなかったが、彼女はウィリアムズに対して悪意を抱いていないということを再三表明してきた。そして2020年、ジョージ・フロイド殺害をきっかけに、人種問題について発信をはじめた。彼女はLAからミネアポリスに飛び、フロイドの葬儀に参加した。その決断と経験について、大坂はエスクィアの記事に寄稿している。そして2020年のUSオープンでは米国で人種差別と警察の暴力の犠牲になった黒人それぞれの名前が書かれた7つのマスクをそれぞれの試合で着用し、ブラック・ライブズ・マターのプロテスト行動をみせた。優勝後のインタビューでは、ESPNの記者が投げかけた「どのようなメッセージを発信したかったのか」という質問に対して、「逆にあなたはどんなメッセージを受け止めましたか」と切り返し、「人々の対話を促すということが重要な点であると思います」と述べた。

 今回の一件で、大坂のスポンサー企業は退くどころか、積極的にサポートを表明した。各企業の目論見はわからないが、この事実は大坂の発信力と影響力の価値を企業が認め続けていることの証であり、メンタルヘルスや人種といった議題に対する社会への理解が進み始めていることを示唆するものである。

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Text by MAKI NAKATA