大坂なおみの発信力と影響力 全仏大会棄権が示したもの

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 大坂なおみが全仏オープンを棄権。メンタルヘルスを理由に記者会見に一切応じないとした発表に対しての、大会側からの罰金・警告処分を受けての判断だ。大坂の判断については賛否両論あるものの、自分自身を守り、自分のボイスを発信し続ける彼女の影響力が弱まることはなさそうだ。

◆全仏オープン棄権の経緯
 大坂は5月26日、自身のツイッター上で、全仏オープンでは記者会見には一切応じないということを表明した。とくに記者会見において、選手のメンタルヘルスに対しての配慮がまったくないと感じてきたと彼女はいう。一部のジャーナリストが何度も同じ質問を投げかけたり、負けた選手に対してさらに精神的な負担を与えたりするような状況が理解できないとし、「記者会見をやらなければ罰金」という大会側のルールについても、自分は受け入れられないといったような説明をした。ツイートは、ファンに向けてのフレンドリーなメッセージという体裁をとってはいるが、メディアや大会開催者という「権力構造」のなかで、選手のメンタルヘルスが軽視されている点に対して、彼女は明確な意見と態度を示した。

 全仏オープンの一回戦で大坂は勝利したが、宣言どおり試合後の記者会見には応じなかったため、1万5千ドルの罰金処分と大会出場失格の可能性という警告を受けた。全豪オープン、USオープン、ウィンブルドンを含む、ほかのグランドスラム開催者からも、今後のグランドスラム出場停止などといったより厳しい処分の可能性が警告され、結果的には大坂は全仏オープンを棄権した。その後、自身のインスタグラムの投稿で、2018年のUSオープン以降、自身がうつ病を抱えており、とくにメディア取材に応じることが精神的な負担になっているという旨の文章を公表した。2018年のUSオープンは、女子シングルスで23のグランドスラム・タイトルを持つセリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)に対して大坂がストレート勝ちして優勝した大会だ。彼女は投稿した文章を通じて、数日前は予想していなかった状況になったとしたうえで、大会のためにも、ほかの選手のためにも、自分の心の健康(ウェルビーイング)のためにも棄権するのがベストだとコメント。先のツイートではメンタルヘルスとの表現をしていたが、この投稿ではうつ病(depression)という単語を使い、より明確に自分の精神状態を公表した。とくにメディア取材に応じることは、内向的な自分が自然とできることではなく、緊張してストレスになっていたと述べた。また、記者会見を強制する大会のルールも時代遅れだと感じているとし、改めて大会開催側に対する批判の意見も表明した。さらに、しばらくの間コートから離れると発表した。

Text by MAKI NAKATA