人気衰えないタトゥー 「イグノラント・スタイル」が流行

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◆身近な事柄を描く「イグノラント・スタイル」
 タトゥーのデザインには流行がある。たとえば白いインクのホワイトタトゥーは最近評判で、日本でも彫ってもらえる。イグノラント・スタイルというデザインもこの数年注目を集めていて、マスコミでよく取り上げられている。

 イグノラントタトゥー(無知な入れ墨)とは、非の打ち所がない美しい線やはっきりした陰影を使わず、ユーモア、メッセージ、皮肉の表現に焦点を当てたタトゥーだ(タトゥーコミュニティTattoodo)。ハリウッド女優のスカーレット・ヨハンソンが入れたLUCKY YOUという文字と蹄鉄(いつでも幸運と成功をもたらすという意味)もイグノラント・スタイルだと話題になった。

 イグノラントタトゥーの絵はスーパーの紙袋、フライドポテトやピザや牛乳、トイレやバスタブ、携帯電話やテレビやコンピュータといった電子機器、マンガのキャラクターなど。除去しない限り自分の体に残るのに、なぜこんなありふれたモチーフをタトゥーに選ぶのかと驚かされる。クラシカルなタトゥーのデザインと比べると、走り書きのような線で技術的に劣っているようにも感じられる。だが、それこそがイグノラントタトゥーの持ち味なのだ。

 スカーレット・ヨハンソンのLUCKY YOUを彫ったフランス人の刺青師Fuzi UVTPKが、グラフィティアーティスト時代に生み出したイグノラント・スタイル(悲劇的、またはドラマチックでありつつもユーモアがある絵)をタトゥーの世界に持ち込んだことが始まりとされる。

 Fuziは、自分は刺青師ではなく単なるアーティストだと言う。世界を旅し、ギャラリーや屋上、トンネルなどタトゥーを彫るような場所ではない所を選んで客を迎え入れる。たくさんの刺青師が彼の仕事のやり方にショックを受けるというが、おかまいなしだ。タトゥーを彫る上で一番大事なことは、何かを作り出す行為だと考えている。(お決まりの)タトゥーを入れる人はたくさんいるが、彼にしてみれば無意味な絵に思えるという。顧客が途切れないのは、自分がタトゥーで表現している感情を顧客たちも感じたいからで、これからタトゥーの世界では、出来栄えよりプロセスを大事にすることに関心が高まっていくだろうとFuziは予想している(VICE)。

 イグノラントタトゥーはタトゥーの世界では異色だ。しかし、柔軟性があり、欲しい物は買い、クールな見た目が重要なジェネレーションXや、自分の価値観に合う物や事柄を重視し、ダイバーシティを尊重するミレニアル世代の間では、そんなFuziの熱い思いは「気が利いていて、カッコイイ」と共感を呼ぶのだろう。

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Text by 岩澤 里美