映画『アクアマン』レビュー ド派手な海中ショーと凝りに凝った脚本

Warner Bros. Pictures via AP

 タツノオトシゴ(映画ではシードラゴン)に乗って移動するスーパーヒーローは尊敬されない。

 漫画家のポール・ノリスと編集者のモート・ワイジンガーがアクアマンの着想を得たのは1941年のこと。以来、そのさほど強力ではないパワーゆえ、アクアマンはDCコミックス(アメリカのコミック出版社)のお笑い担当になるのがお決まりのオチであり、定めだった。そう、彼は水中で話すし、巨大なフォーク(三叉の槍)を振り回す。それに、『ゴッド・ファーザー』の殺し屋とは事情が違うが、魚と一緒に眠っている。

 しかし、アクアマンがついに日の目を見た。アトランティスのヒーローの初主演映画で見事に大役を果たしたのが、2016年公開の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と翌年の『ジャスティス・リーグ』でもアクアマンを演じたジェイソン・モモアだ。こっちのアクアマンを笑ったりしたら、こてんぱんにやられそうだ。

 ジェームズ・ワン監督の海中アクションエンターテインメント『アクアマン』で、ヘビメタのギターリフが鳴り響く中、観客の前に初めて現れるモモアは、長髪で裸の上半身はタトゥーだらけだ。彼は肩越しに振り返っていたずらっぽく笑いながら、「乗船許可を(Permission to come aboard?)」と言う。

 満足のいく登場だ。先日の『サタデー・ナイト・ライブ』での名ホストぶりが示すように、彼のカリスマはそのたくましい筋肉と同様に素晴らしい。だから、モモアのアクアマンを活かすだけでいいのに、なぜ『アクアマン』はアトランティス神話にどっぷり浸かり、特殊効果に溺れているのだろうか。

 ワン監督のド派手な海中ショーは楽しい。海底人を熱演するウィレム・デフォー(パトリック・ウィルソン演じるアトランティスの支配者オームに仕える参謀バルコ役)を見られるのは、今のところ間違いなくこの映画だけだ。ほかにも、タコがドラムを叩く決闘シーンや、水が兵器と化す数々のシーンの中でも、シチリア島で激闘の末にワインセラーで追っ手にとどめを刺すシーンは見物だ。

 波がある最近のDC映画の中で『アクアマン』は、『ジャスティス・リーグ』と『ワンダーウーマン』を足して二で割ったような作品だ。それがこの映画の長所でもあり欠点でもあるが、予想通り(そしてときにうんざりするほど)スムーズに進むマーベル映画に比べ、『アクアマン』は波乱万丈だ。しかし、波のように打ち寄せる説明と、型どおりで細かくて凝りに凝った脚本のおかげで、モモアやタコといった明るい材料を心から楽しめない。

 海の中で戦争が起ころうとしているが、デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリックとウィル・ビールの脚本はなかなかそこへ進まない。彼らには描かなければならない始まりの物語があるのだ。海の女神を演じる必要のない映画界の女神、ニコール・キッドマン演じる、アトランティスを追われた王女アトランナがメイン州の岩だらけの海岸に流れ着き、灯台守(テムエラ・モリソン)に助けられる。二人は恋に落ち、生まれた子ども(後のアクアマン)にアーサーと名付ける。しかし、アトランナは海に帰ることを余儀なくされる。

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 幼少期にバルコに鍛えられ成長したアーサーは、ハッピーアワーのバーをはしごする傍ら、ヒーローとして暗躍していたが、「地上人」との戦争を企んでいる異父弟オームとの七つの海の王位継承争いに巻き込まれる。オームにとってアーサーは、海底国にふさわしくないよそ者の「混血」だ。アトランティスを救い戦争を回避するために、凄腕の戦士で美しい赤毛をした海底国ゼベルの王女メラ(アンバー・ハード)とともに、世界を股にかけ聖なる三叉の槍を探し出すミッションを開始するアーサー。三叉の槍のアクションをこれでもかと繰り広げる。道中、投げやりな態度を取りつつも、折に触れてロマンチックな会話を交わす二人。

 何世紀もの間ひっそりと平和を保ってきた海底国だが、オームとその一党は地上人の存在に辟易していた。なぜ彼らがもっと前にジェットスキーや、人気長寿ドラマ『ベイウォッチ』にキレなかったのかは不明だ。報復の気運が高まるなか、オームは海のゴミと軍艦を世界中の海岸に押し流す。

 しかし、『アクアマン』は臆病なあまり、この伏線を回収しない。それに、アクアマンと会話できるのに、海の生物はまともに描かれていない。代わりに観客が見せられるのは、スーパーマンの故郷クリプトン星や古代ギリシャでよくありそうな、退屈な王位継承争いの話だ。

 ジェームズ・ワン監督(『ソウ』シリーズ、『ワイルド・スピード SKY MISSION』)が安っぽいCGIを多用した点はいただけないが、アトランティスの素晴らしい人工美を作りだした点は称賛に値する。浮かび上がるアトランティスの景色以上の収穫を得る前に、映画はあっという間に進む――海底の排水機能など、多くの謎を残したまま。『トロン』を彷彿させる明るいネオンに縁どられたアトランティスの外観は、頑丈な造りの映画館だ。しかし、この映画で唯一本当に視覚的に圧倒されるシーンは、たった一つの灯りに照らされた海底で繰り広げられる、迫りくる恐ろしい生物の群れとのチェイスだ。
 
 アクアマンというキャラクターを驚くほど正確に把握しているワン監督とモモアは、最終的に2時間以上かけて誠実なラストへと導き、長ったらしいわりに中身のない兄弟喧嘩で映画が終わるのを回避する。確かにオーバーで都合のいい点は多々あるにせよ、最後にはアクアマンが穏やかに歩み寄って「話をしよう(Let’s talk)」と味方のマナティーではなく敵対する弟に言うのだから、『アクアマン』にはそれなりの収穫がある。

 ワーナー・ブラザース配給『アクアマン』は、PG-13指定。上映時間は2時間23分。2019年2月8日(金)より公開。

By JAKE COYLE, AP Film Writer
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP