米公開の『万引き家族』、批評家から高評価 是枝監督の「繊細さ」に集まる感嘆の声

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◆是枝監督の手腕
 是枝監督の繊細で正確な感覚は、米メディアの間で評判だ。NYT紙は、その細やかな感性はまるで「金庫破りの師匠の訓練された指遣い」のようである、と犯罪一家というテーマに絡めて例える。また、「感情的かつストーリー性に富んだ作品を奏でる名演奏家」のようだ、と監督を賞賛する。映像はあえて控えめのトーンで撮られており、視聴者に考える間を与える。無理に観客の気持ちを動かそうとせず、感情は自然と湧き上がってくるのだということを理解しているからこそできる采配だ。子供を「誘拐」する場面でさえ淡々としたムードで描かれ、それがかえって観る者の心拍数を跳ね上げる。サスペンスを描くにあたり至極的確な手法だ、と同紙は評価している。

 LAT紙は、是枝監督が今年のカンヌ映画祭で最高賞となるパルム・ドールを本作で受賞した実績を紹介しつつ、作品は智恵と洞察に富んでおり、繊細かつ感動的な物語で、なおかつ驚くほどの力強さを備えていると讃える。

 是枝監督は、25年間で17本の長編映画を撮っている多忙な人物だ。そう紹介するボストン・グローブ紙は、過去の作品として、虐待児童をテーマにした2004年の『誰も知らない』、団地を舞台に家族の関係を描いた2017年(日本公開2016年)の『海よりもまだ深く』を挙げる。

 静かな心の動きを力強くスクリーンに映し出してきた是枝監督は、本作でもその穏やかなスタイルを踏襲している。繊細なタッチがアメリカの映画ファンの心を掴んだようだ。

Text by 青葉やまと