米公開の『万引き家族』、批評家から高評価 是枝監督の「繊細さ」に集まる感嘆の声

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 今年6月、是枝裕和監督の最新作となる『万引き家族』が国内で封切りした。家族と社会のあり方を問う同作は、このたび11月23日にアメリカでも上映解禁となっている。米レビューサイト「ロッテン・トマト」で批評家たちが99%の高評価を与えるなど、評判は極めて良好だ。メディアがこぞって評価するのは、家族というテーマに注がれる是枝監督の鋭敏な視線だ。

◆生きるために盗む一家
 スーパーで万引きを働き、ギリギリの生活を送っている5人家族が本作の主人公たち。ある夜、リリー・フランキー演じる父・治は、虐待を受けている児童・ゆりを近くの団地で保護する。ゆりは万引きの手伝いなどを通じて少しずつ家族と打ち解けるが、数ヶ月後、彼女の失踪がニュースで大々的に報じられてしまう。治の妻・信代(安藤サクラ)はゆりの髪を切って別人に仕立てるが、連れ歩いている姿を第三者に目撃される。これを機に、秘密と嘘にまみれた一家の生活は徐々に破綻してゆく。

◆崖っぷち家族の絆
 作品の主題は、お互いを必要としている貧しい家族の絆だ。ニューヨーク・タイムズ紙(11月22日、以下NYT)は、ともに盗み、ともに暮らす家族の物語だと紹介している。「崖っぷちの家族を巡るストーリーを通じて、日本の是枝裕和監督が窮状に光を当てる、美しく感じられる家族のドラマ」と同紙は表現。堕落した欠陥だらけの一家だが、だからこそ、人間性とは何かを問うストーリーが際立つ。

 家族とは最も近い存在でありながら、最も問題を招きがちな存在でもある。この点を十分に理解した作品だ、と讃えるのはロサンゼルス・タイムズ紙(以下LAT)だ。家族がもたらす喜びや責任について、観る者に再考を迫る一本だと述べている。一家の面々は、誰もが後ろめたさを隠している。しかし、想像しづらいだろうが、全員が人間の絆を渇望しており、それを手中に収めるために様々な苦難を経験する、と同紙はストーリーを振り返る。家族関係の繊細なニュアンスを描いた点が高評価に結びついたようだ。

 本作の描き出す家族の形には、ボストン・グローブ紙も興味を引かれている。主人公一家は傍から見れば信頼できない集団だが、本人たちにとっては愛を育むパワーの源に他ならない。凝ったプロット進行よりも、人々の関係性を丹念に描写した作品だと評価する同紙は、20世紀の巨匠・小津安二郎が大きく影響しているのでは、と見ている。

Text by 青葉やまと