葛飾北斎の娘・応為、「時の人」として海外でも脚光 現代人の心を打つ生き様と画力

露木為一 / Wikimedia Commons

◆「女性が生きづらい時代、型破りに生きた」と驚きの声
 海外で応為が知られるようになったのは、彼女を描いた映画やドラマの影響も大きい。とくに、日本でも高い評価を得たドラマ『眩(くらら)~北斎の娘~』(2017年、NHK)は昨年、世界最大の国際映像見本市「MIPCOM」でプレミア上映されると、多くの欧米メディアから注文が集まった。ドラマは、応為が父のもとで修業を積み、やがて自らの表現を見つけていく姿を描いたもの。老いた応為が、夜の吉原遊郭を光と陰で表現した「吉原格子先之図」を描くクライマックスでは、作品も脇役として光る。

 ドラマは今年も国際エミー賞など複数の国際ドラマ賞にノミネートされ、引き続き話題だ。今秋開催されたサンフランシスコ日本映画祭を報じたサンフランシスコ・エグザミナー紙は、同作のポイントを「女性が権利を持たなかった19世紀の日本で、身軽に、型破りに生きる若い女性」と見た。もともと欧米では伝記ドラマの人気は根強いが、応為の現代的な生き方、飄然とした人物像が目を引いたようだ。

◆応為の人柄をとらえたアニメがNetflixで人気に
 応為を描いたアニメーション映画『百日紅~Miss HOKUSAI~』(2015年)も海外でじわじわ広まっている。この作品でも、応為が画業に没頭する姿や、複雑な父子関係が知られるようになった。

 ガーディアン紙は、北斎と応為を紹介する特集記事で同アニメに触れつつ、最新の研究までカバーして彼女の人物像に迫った。『三国志』を題材にした「関羽割臂図」に着目したのも、応為の表現力を紹介するためだろう。この作品では、毒矢で射られた腕を医者に切開された関羽が碁を指すという凄絶な題材が描かれる。滴り落ちる血の表現が関羽の豪傑ぶりを際立たせるとともに、碁盤の装飾など応為ならではの精緻な表現も目を引く。これを「最も印象的な作品のひとつ」としたのは、当時の女性として破格の筆づかいと見たからだろう。

 現代人の心をつかむ応為の作品や生き方、複雑さは、これからも多彩に読み解かれ、国内外でファンを増やしていくことだろう。

Text by 伊藤 春奈